灰を吸う花嫁衣装
白い花嫁衣装に触れた傷は、着ている者の身体へ移る。
それが、亡き伯母のドレスにかかった呪いだった。
マリカは結婚式の朝、その衣装を箱から出した。贅沢な刺繍も、真珠のボタンも好きではない。それでも仕立て直す金はなく、婚約者の家は古いしきたりにうるさかった。
教会へ向かう途中、鐘楼の足場が崩れた。
市場にいた妹ティセが、落ちた梁の下敷きになった。細い脚は不自然に曲がり、胸元から血がにじんでいる。治癒師は首を振った。
ティセは昨夜まで、姉のために花冠を編んでいた。結婚したら遠くへ行くマリカへ、毎月手紙を書くと何度も約束し、字が下手だから練習帳まで買っていた。泥の中には、その花冠が半分つぶれて落ちている。マリカは初めて、今日の式が二人の暮らしを終わらせる日でもあったのだと気づいた。泥に散った白い花は、祝福より先に別れを告げているようだった。
「動かせば、息が止まります」
マリカは花嫁馬車の中へ戻った。箱に残っていた注意書きは短い。
――布に触れた傷は、花嫁が引き受ける。
婚約者の母は青ざめた。
「その子は助からないわ。あなたまで式を台無しにする気?」
マリカは返事をせず、ドレスを着た。背中のボタンを一つずつ留めるたび、胸が妙に静かになった。
彼女は広い裾をティセの身体にかけた。
布が血を吸う。赤い染みはすぐ消え、代わりにマリカの肋骨の内側で何かが砕けた。息が詰まり、左脚から力が抜ける。それでも裾を離さない。
ティセの頬に色が戻った。曲がった脚がゆっくり伸び、裂けた皮膚が閉じていく。
「お姉ちゃん、式は……」
「あなたが座れるようになったら、また考える」
最後に胸の傷が移ると分かっていた。治癒師が止めようとする。婚約者は遠巻きに、真新しい靴が汚れるのを気にしていた。
マリカは、そんな男の妻になる未来より、妹と喧嘩しながら朝食を食べた昨日を選んだ。
「ティセ。目を閉じて」
妹が従う。
白い布が最後の血を吸い上げた瞬間、マリカの胸の奥で、鋭い音がした。