無事故二千日目

【物流センター労働災害・内部監査ログ】

 当センターは七月一日午前零時をもって、連続無事故二千日を達成した。

 同日、記念式典の準備中に作業員一名が死亡したが、会社側は「敷地外で発生した私傷病」として処理している。

 以下、機器記録を時系列で整理する。

午前九時十二分

 自動梱包機四号、異物検知により緊急停止。

午前九時十三分

 作業員が機械内部に挟まれていることを同僚が確認。

 本人は意識あり。「脚が抜けない」「救急車を呼んで」と発言。

午前九時十四分

 班長、内線で管理室へ報告。

午前九時十五分

 管理室より回答。

〈本日は無事故二千日記念式典です〉

〈救急要請前に、事故区分を確認してください〉

午前九時十七分

 被災者の社員証を使用し、退勤処理。

 操作端末の映像には、班長が本人の首から社員証を外す様子が記録されている。

午前九時二十分

 監視カメラ四台が「式典機材調整」の名目で停止。

午前九時二十四分

 被災者を木製パレットへ載せ、フォークリフトで搬出口へ移動。

 心拍センサーは毎分百三十二回を記録。本人は生存。

午前九時三十一分

 敷地境界外の道路脇へパレットを降ろす。

午前九時三十四分

 班長が一一九番通報。

「通勤途中らしい男性が路上で倒れている」

「社員かどうか分からない」

「こちらの敷地内では事故は起きていない」

午前九時四十一分

 救急隊到着。

 被災者は心肺停止。

【医療機関所見】

 受傷直後に救出と止血を行っていれば、救命可能性は高かった。

 死因は挟圧そのものではなく、長時間放置による出血性ショック。

【会社発表】

〈従業員が退勤後、敷地外で体調を崩した事案〉

〈労働災害には該当しない〉

〈無事故記録は継続中〉

【追加データ】

 被災者のヘルメットカメラには、搬送中の会話が残っていた。

『まだ息がある。救急車を中へ呼べ』

『今日を事故日にしたら、二千日が最初からだぞ』

『人が死ぬ』

『敷地の外で死ねば、事故じゃない』

 午前十時、玄関ホールで記念式典が始まった。

 管理責任者は金色のくす玉を割り、従業員へ安全第一を訴えた。

 背後の電光掲示板には、

〈無事故二〇〇〇日達成〉

 と表示されていた。

【翌日追記】

 午前零時、掲示板は自動更新された。

〈無事故二〇〇一日目〉

 被災者の氏名は、社員名簿から前日付で削除されている。