無効になった百台

新型ゲーム機の抽選発表日、家電店の受取カウンターへ百人分の当選画面を持った男が来た。

黒須賀真吾だった。

「全部、親戚の代理です。車に積むから早くして」

担当の鳳来森颯璃は、最初のQRコードを読み込んだ。名義は違う。しかし百件すべて、応募端末の識別番号、決済カード、配送先の倉庫が同じだった。

「ご本人確認をお願いします」

「家族なんだから俺でいいだろ。抽選に勝っただけだ」

真吾は後ろの列へ聞こえるように笑った。正規当選者の何人かは、彼の転売ページで三倍の値段を見ていた。

颯璃は受取を止め、店長とシステム担当を呼んだ。

今回の抽選は、一人一台だけではない。応募時に、同一端末から大量登録された場合は自動で保留し、当選後の本人確認で確定する仕組みだった。真吾の百件は、入力作業の経路を追うため、あえて仮当選表示にされていた。

「罠かよ」

「不正の確認です」

登録名のうち二十人は、実在しない生年月日。三人は本人が知らないうちに会員番号を使われていた。百のアカウントは七分間に連続作成され、住所欄には同じ変換ミスが残っていた。偶然では説明できない並びだった。店はすでに被害者へ連絡し、警察へ相談していた。本人たちは抽選へ応募しておらず、真吾へ代理を頼んだ事実もなかった。

真吾はスマートフォンを奪うように伸ばしたが、カウンターのカメラと警備員のボディカメラが動いている。彼が“親戚”と説明した音声も記録された。

販売規約により百件の仮当選はすべて無効。系列店のアカウントも停止され、決済会社は名義不一致のカードを調査対象にした。

店長が再抽選ボタンを押す。

百台はその場で、落選していた正規応募者へ再配分された。カウンター前の人々の端末が、次々に震え始める。

真吾の画面には、百の当選表示が一斉に灰色へ変わった。

最後の一台が、誕生日の子どもを連れた父親へ再当選した瞬間、百人になりすました転売屋は一人分の権利さえ失い、百台すべてが本当の購入者へ戻った。