無敵結界の瑕疵を見つけました
敵国の白い結界は、三日間一度も揺れなかった。
攻城槌も大魔法も跳ね返され、味方だけが倒れていく。しかも敵将は占領地の民を結界の内側へ並べ、盾にしていた。
見習い監査士ミレアが前へ出ると、騎士団長は舌打ちした。
「帳簿の穴でも探していろ。魔法に事務屋の出番はない」
【瑕疵鑑定:対象が成立するための条件と、その条件に反する欠陥を一つ表示する】
ミレアは契約書の誤字や倉庫のひびを見つけるためだけに使ってきた。だが、結界もまた条件によって成立している。
彼女は壁ではなく、目の前の「守護」という仕組み全体を対象にした。
視界が白く焼け、膨大な術式が流れ込む。鼻から血が落ちた。やがて一つの瑕疵だけが赤く浮かぶ。
――守護対象を自ら盾として扱った者は、守護者の資格を失う。
「敵将に告ぐ!」
ミレアは拡声の魔石を奪った。
「その結界は、守る者のためのものです。民を盾にした時点で、あなたは守護者ではない!」
敵将は笑った。
「言葉遊びで城壁が崩れるものか」
ミレアは術式へ、監査結果を突きつけるように指を向けた。
「条件違反を確認。守護資格、失効」
結界が鳴った。
最初の亀裂は、敵将の足元から走った。白壁は民の前だけを残し、兵士を囲む部分から粉々に砕けていく。結界は壊れたのではない。守る相手を選び直したのだ。
民を押さえていた敵兵は外へ弾き出され、味方の騎士が一斉に突入した。敵将は自分だけ結界の外に取り残され、剣を捨てるしかなかった。
騎士団長は沈黙した後、ミレアに道を譲った。
「事務屋ではなかったな」
「いいえ。規則を守らない方を通さないだけです」
内側にいた民は、残された結界に守られながら敵兵の腕を振りほどいた。彼らが門を開くと、味方は一人の民も傷つけず城内へ入る。敵将が「命令に従っただけだ」と弁明した瞬間、結界の欠片が彼の口を塞いだ。守護術そのものが、責任を部下へ押しつける行為まで二度目の条件違反と判定したのだ。
白い光が彼女の職業欄へ集まり、新しい名を刻んだ。
【職業:見習い監査士 → 法則瑕疵監査官】