焦げた杖の魔力紋

魔法学院の実技室で、セレナ・ヴァルディの杖が真っ二つに折られていた。

「平民のくせに、侯爵令嬢より良い杖を持つからよ」

ミレイユ・ダルクは折れた杖を靴先で転がし、周囲の令嬢たちと笑った。次の瞬間、火球が練習台へ飛び、壁まで焦がす。

教師が駆け込むと、ミレイユは青ざめた演技でセレナを指した。

「先生、セレナが逆上して撃ったのです。私たちは止めようとしました」

焦げた杖の先には、火属性の残滓がある。教師はセレナへ退学用の供述紙を差し出した。

「違うなら証明しなさい」

「できます」

セレナは折れた杖を拾わず、練習台の銀板を裏返した。折られる前に杖を取り戻そうとして手を叩かれた赤い痕も、隠さず机上へ置く。学院の実技台は、暴発事故に備え、発動した魔法の魔力紋を一刻だけ保存する。

浮かんだのは、薔薇を三つ重ねたダルク侯爵家の紋だった。

ミレイユはすぐ叫ぶ。

「杖を盗まれたのよ! その子が私の魔力を移したのだわ」

「では、こちらも」

セレナが壁の焦げ跡へ水を垂らすと、黒い煤の下から金色の文字が現れた。

『威力を最大に。平民の退学理由にする』

魔法を放った者の命令句である。ミレイユは見栄を張り、無詠唱ではなく自分の言葉で火球を撃っていた。

教師は貸出票の余白にある返却予定時刻も示した。ミレイユはまだ借用中の杖を「盗まれた」と主張している。

それでも彼女は笑みを作った。

「私の声に似せたのでしょう。証人は皆、私の友人よ」

「ええ。だから証人には頼りません」

セレナは教師の机にあった杖貸出票を示した。ミレイユは今朝、「セレナの杖の耐久検査をする」と虚偽の理由を書き、自筆署名で借り出している。折った杖へ自分で魔力を流し、返す前に火球まで撃った。

実技室の扉が開き、学院長と王室魔導監査官が入った。銀板は王宮の事故記録庫へすでに転送されている。

ミレイユの友人たちは一斉に距離を取った。

「平民一人のために、侯爵家を敵に回すの?」

学院長は答えず、黒縁の処分書を読み上げた。

「ミレイユ・ダルク。器物損壊、いじめ、虚偽告発および攻撃魔法の不正使用により、退学を命ずる」