片方だけの靴下

コインランドリーの掲示板には、三週間前から片方だけの靴下が留められていた。

 深い緑色で、足首に細い金色の線がある。透明な袋へ入れられ、「忘れ物 十二日」と書かれている。琴美は来るたび、それがまだあることを確かめてしまう。

 午前二時、店内には誰もいなかった。

 蛍光灯は白く、空調は少し冷たすぎる。洗濯機へシーツと部屋着を入れ、硬貨を落とす。水が入り、ドラムがゆっくり動き出した。

 右へ回る。

 止まる。

 左へ回る。

 止まる。

 窓の外では細い雨が降り、看板の赤い文字を滲ませている。

 一か月前まで、琴美は友人と二人で暮らしていた。就職した年も、失恋した夜も、冷蔵庫のプリンに名前を書いた朝も同じ部屋だった。友人は結婚し、駅を三つ越えた町へ移った。祝福して見送ったのに、洗濯物の量が半分になったことだけが、毎週きちんと寂しかった。

 洗濯機がすすぎへ移る。水の音が高くなる。

 そのとき入口のベルが鳴り、黒いレインコートの人が入ってきた。小さな洗濯ネットを一つだけ抱えている。顔を上げず、空いている機械へ中身を入れた。子ども用らしい手袋が二つ、ピンクの靴下が一足、丸い窓の中へ落ちる。

 人は硬貨を入れたあと、掲示板の前で止まった。

 ポケットから青いミトンを一つ出し、備え付けの袋へ入れる。日付を書き、緑の靴下の隣へ画鋲で留めた。それから椅子に座らず、傘を差して外へ出た。

 掲示板には、片方ずつのものが二つ並んだ。緑と青で形も大きさも違い、対になるはずはない。それでも透明な袋が空調に揺れるたび、同じ速さで少しだけ傾いた。

 どちらも持ち主は見つかっていない。けれど捨てられず、誰かが見えるところへ置いてくれたものだった。

 乾燥を終え、琴美はシーツを畳んだ。部屋着の袖から、自分の灰色の靴下が片方だけ出てきた。もう片方は見当たらない。

 以前なら、床まで探していた。

 琴美は灰色の一枚をバッグへ入れた。たぶんシーツの隅か、乾いたタオルの中にいる。見つからなくても、明日探せばいい。

 掲示板の二つへ目をやり、灯りを背に店を出た。

 片方でいる時間は、なくなったことと同じではなかった。