猫は親権を選ばない
両親の離婚協議で、一番揉めたのは猫だった。
「昼間ずっと家にいるのは私」
「病院へ連れていっていたのは俺」
「餌を買うのは?」
「半分ずつ」
「毛玉を吐いた掃除は?」
「それは回数を数えてない」
中学生の息子は、食卓の端で聞いていた。
自分については、平日は母、隔週末は父と、十分で決まった。猫の話は一時間続いた。
「本人に選ばせよう」
父が二つのキャリーケースを並べた。
母のケースにはお気に入りの毛布。
父のケースには高級な猫用おやつ。
猫は二つを嗅ぎ、どちらにも入らず、息子の通学鞄の上で丸くなった。
「ほら、私の家に残りたいのよ」
「鞄は週末うちへ来る」
また喧嘩が始まった。
息子は鞄を抱き上げた。
「猫は親権を選んでない。うるさくない場所を選んだだけ」
二人は黙った。
「それに、僕のことは十分で決めたよね」
「学校があるから仕方ないでしょう」
「仕方ないって言えば、僕はどっちでもいいの?」
母の顔が強張った。父はキャリーケースを閉じた。
息子は紙へ希望を書いた。
平日は学校に近い母の家。
父の家へ行く日は、猫も一緒に行けるか試す。
猫が嫌がったら無理に運ばない。
面会日は両親の都合だけで変えず、自分へも聞く。
忘れ物を届けるとき、玄関で喧嘩しない。
「猫より条件が多い」
父が言った。
「僕は猫より言葉が多いから」
最初の週末、猫は父の家で押し入れから出なかった。二度目は窓辺まで来た。三度目には父の布団で眠った。
母は少し寂しそうに写真を見たが、「うちでは私の枕を使う」と張り合うだけで済んだ。
離婚後、息子は二つの家を行き来した。
どちらにも自分の歯ブラシと寝巻きがある。
どちらにも猫の皿がある。
どちらにも、もう片方の家を悪く言わないという規則がある。
ある日、猫だけが父の家へ行き、息子は友達との予定で母の家に残った。
「猫はいいのに、僕は来ないのか」
父が冗談めかして言った。
「僕は面会用の荷物じゃないから」
「そうだった」
猫は親権を選ばなかった。
息子も、父母のどちらか一人を選ばなかった。
選んだのは、二つの家で自分の希望を言える暮らしだった。