王の秘密が露店に並ぶ朝

ユーヴァンが王宮を追放された翌朝、軍議の内容が会議終了より先に市場へ出回った。

宰相シュタルが南門から騎兵を出すと決めた半刻後、露店では「南部遠征記念」の旗が売られ、賭場では進軍日の倍率まで掲げられた。敵国大使は昼前に王都を発ち、南の砦へ早馬を飛ばした。

「内通者を捕らえろ!」

近衛兵が侍従を並べたが、誰の懐からも密書は出ない。代わりに書記官が、会議室の壁へ埋め込まれた古い装飾水晶を見つけた。廊下の照明用と思われていたそれは、音を遠くへ映す盗聴晶だった。

昨日まで作動しなかった理由は一つ。結界師ユーヴァンが、会議のたびに部屋の内側だけ音を循環させていたからだ。外からの声は通すが、内側の言葉は扉を越えない。王はその術を「壁も光らぬ小細工」と呼び、派手な防御魔術を使える甥を後任に据えた。

後任の金色の障壁は矢を弾いたが、囁きは素通りした。

その頃ユーヴァンは、商人組合の契約室で十人の前に立っていた。組合長イーノスが扉の外へ出て耳を当て、戻ってくる。

「中で机を叩いた音すら聞こえなかった。だが呼び鈴は届いたぞ」

「必要な音だけ通す結界です。火災警報まで塞いでは危険ですから」

「これで価格交渉を盗み聞きされない。王宮の三倍払う。全支部の契約室を任せたい」

拍手の代わりに、商人たちは正式な発注書を一斉に差し出した。それが彼らなりの最大の評価だった。

夕刻、王宮の使者が駆け込み、宰相直筆の召還状を読み上げた。

「国家機密のため、直ちに元の職へ復帰せよ。待遇は追って協議する」

ユーヴァンは組合の機密保持契約へ署名し、召還状を使者へ返した。

使者は「王命」という言葉を二度強調したが、謝罪も契約条件も口にしなかった。必要になれば当然戻る者だと、まだ思っているのだ。対して商人組合は、術式の点検日、緊急呼出しの追加料金、休暇中の代行手順まで書面にしていた。ユーヴァンが守る秘密を尊ぶだけでなく、秘密を守る彼自身の生活も守る契約だった。彼は露店で売られた王国の作戦旗を窓越しに見てから、組合の封蝋を指で確かめた。

「王宮との契約は、昨日をもって終了しています」