王城を背負う荷役
「荷役職《半荷》。両手で触れている物の重さを半分にするだけか」
宮廷魔術師長ゼルドランは、任官式の壇上で笑った。
【技能:両掌で一つの物体に触れている間、その重量を二分の一にする】
武器を持てば技能は切れる。運べるのも、せいぜい家具や石材。王宮に呼ばれた転生者の中で、ベネドだけが「倉庫行き」と告げられた。
その日の夕刻、空が裂けた。
王城は古代の浮遊岩盤の上に築かれている。四本の天鎖が城を支えていたが、魔王軍の遠距離呪撃で二本が同時に砕けた。大広間が傾き、柱が軋み、窓の外で城下町がゆっくり近づく。
「全員、転移陣へ!」
だが、転移陣が運べるのは王族だけだった。数千人の使用人と兵士、そして城下の住民は、落下する王城の下敷きになる。
ベネドは逃げず、玄関脇の由来碑へ駆けた。前世で建築を学んだ彼は、任官式の待ち時間に刻文を読んでいた。
――この城は、天から落ちた一枚岩をくり抜き、柱も床も継ぎ足すことなく造られた。
石を積んだ城ではない。城そのものが、彫刻された一個の岩なのだ。
ベネドは外壁へ両手を押し当てた。
「何をしている!」
「王城を持ちます」
技能が発動した瞬間、残る二本の天鎖の悲鳴が止まった。落下していた大広間が、空中で大きく揺れて静止する。半分になった重量なら、二本で支えられる。
ただし、手を離せば終わる。石肌は冷え、呪撃の余波で裂けた壁から血が滲んだ。それでもベネドは掌を動かさなかった。
修復隊が鎖をつなぎ直すまで、三時間。
最後の留め金が噛み合うと、女王アリシェラは自ら壁際へ歩み、膝をついた。宮廷魔術師長も、その後ろで言葉を失っている。
「荷役職と申したな」
「はい。大きすぎる荷物は、初めてでした」
女王は彼の裂けた両手を取り、王家の治癒布で包んだ。
「訂正しよう。今日、この国を背負ったのは天鎖ではない」
彼女は任官名簿の『倉庫係』を消し、金字で書き換えた。
――王城守護官、ベネド。
「今後、誰がそなたを無能と呼ぶか、よく見ておくといい」