王妃の薬袋にない単位

小夜が王宮診療室へ押し込まれたとき、王妃の熱は四十度を超えていた。

南方から届いた解熱薬はある。だが袋には『体重一石につき二滴』と書かれていた。王国で石は重さではなく、穀物桶の容量を表す。侍医たちは一滴か二十滴かで揉め、誰も投薬できずにいた。夜明けまで待てば肺炎を起こす、と侍医長が告げてから、既に半刻が過ぎている。

「翻訳娘、適当に決めれば首が飛ぶぞ」

薬師長が嗤う。小夜は返事をせず、秤と水差しを借りた。

南方商人の荷札には、同じ「石」の横に小さく『水十五杯と同じ重さ』とある。王国の一杯は二百五十ミリ相当。小夜は同じ杯で水を量り、秤の針が示す値を侍医全員に見せた。それから王妃の体重を量り、紙に数字だけ並べた。

十五杯で一石。

一石は三・七五キロ。

王妃は五十六・二五キロ。

必要量は三十滴。

「三十だと? 多すぎる!」

薬師長が腕を掴む。小夜は薬瓶の添付札を裏返した。そこには『成人上限四十滴』の刻印がある。彼女は三十滴を銀匙へ数え、侍医長の目を見た。

「数字は揃っています」

侍医長が頷いた。

薬師長は自分の名を投薬記録へ書くのを拒んだ。小夜は迷わず自分の名を書いた。薬を飲んで十五分後、王妃の震えが止まった。三十分後、体温計の赤線は三十八度七分まで下がる。呼吸は一分二十八回から十八回へ。王妃は目を開け、最初に水を求めた。頬の赤みが薄れ、汗で濡れていた指が自分で杯を持つ。侍女たちは泣き声を上げず、ただ床へ膝をついた。

診療室の全員が息を吐く。

薬師長は「偶然だ」と言ったが、侍医長は空になった銀匙を机に置いた。

「偶然は、十五杯を三・七五キロには直さない」

王妃が枕元から小夜を呼ぶ。

王妃は用量を書いた紙を枕元へ引き寄せ、三十という数字を自分の目で確かめた。

「南方の薬は、まだ百十二袋あるそうね」

「はい」

「なら、全部に王国の重さで用量を書き直して」

侍医長がその場で雇用状を開き、王宮印を押した。

「医薬翻訳官、小夜。年俸は薬師長と同額で採用する」