男二人の不揃いコロッケ

 大学一年の久留瀬朔は、隣に住む匡から紙袋いっぱいのじゃがいもを渡された。

「町内会の芋掘りで余った」

「僕、包丁ないです」

「俺は油が怖い」

 しばらく見つめ合い、二人で作れば一人前にはなる、という結論になった。

 匡は七十を過ぎた元大工で、妻を亡くしてから惣菜ばかり食べている。朔は春に上京したものの、同級生の輪へ入れず、講義のない日は声を出さないまま夜になる。

 二人とも、互いをよく知らなかった。知っているのは、匡が朝五時に雨戸を開けることと、朔が夜中にカップ麺の蓋を落とすことくらいだった。

 じゃがいもを茹でて潰し、炒めた玉葱と挽肉を混ぜる。匡の手は大きく、丸めると握り飯のような形になった。朔の方は慎重すぎて、薄い小判になった。

「形、揃えます?」

「腹の中で揃う」

 匡はそう言い、衣をつけた。

 問題は揚げる段になって起きた。二人とも鍋から一歩下がり、油の音を聞いていた。

「怖いんじゃないんですか」

「怖い。だが芋に見られてる」

 匡が一つ入れると、泡が勢いよく立った。朔も続ける。衣がきつね色へ変わり、台所いっぱいに油と肉の匂いが広がった。

 新聞紙を敷いた卓袱台で、揚げたてを割る。白い湯気が上がり、じゃがいもの甘さに胡椒が利いている。

「うまいな」

 匡が言った。

「自分で作ったからですか」

「誰かが隣で失敗しそうだったからだ」

 朔のコロッケは一つ破裂し、中身が油へ流れていた。それでも焦げた欠片まで掬って皿へ載せると、妙に香ばしかった。

 ソースをかけるか塩で食べるかでも意見が割れ、結局、一個ずつ両方を試した。

 朔は翌週、大学のサークル見学へ行くつもりだと話した。匡は、古い作業場を片づけて木工を再開しようと思う、と言った。

「見せてください」

「コロッケを揚げるよりは上手い」

「それは見ないと分かりません」

 帰り際、匡は残りを二つ、新聞紙で包んだ。朔の部屋へ戻っても、紙の内側はまだ温かい。廊下には揚げ油の匂いが残り、二つの玄関の間を、細い食卓のようにつないでいた。