町内清掃は開催していません
夏祭りの翌朝、商店街は紙皿、割り箸、うちわの骨で埋まっていた。
午前六時、乾物屋の郷戸市蔵が、ごみ袋を一枚持って店を出た。
「清掃は八時からですよ」
新聞配達の青年が言うと、市蔵は紙コップを拾いながら答えた。
「八時じゃ遅い。七時半に子どもらが通る」
その日は、水害で休校していた小学校の再開日だった。仮設校舎から戻る子どもたちが、半年ぶりにこの道を歩く。
「最初に見る町が、ごみだらけじゃ、帰ってきた気がしないだろ」
市蔵はそう言って、濡れた紙皿を袋へ入れた。
青年は自転車を止め、空き缶を一つ拾った。
それを見た八百屋が、正式な清掃が始まったと勘違いして、店から箒を持ってきた。八百屋を見た花屋が参加し、花屋を見た通勤客が「集合場所はどこですか」と尋ねた。
「開催してないよ」と市蔵。
「でも拾ってますよね」
「個人的にだ」
「では私も個人的に」
十分後、商店街には二十人の個人参加者がいた。
「燃えるごみ、こっち!」
「割り箸は袋を分けて!」
「誰だ、祭りで片方だけ靴を捨てたのは!」
「それ、昨日から探してました!」
道の中央では、片方の靴を履いた青年が見つかった靴を抱えて泣き笑いした。
午前七時二十分。ごみ袋は十五個になり、通りは祭り前よりきれいになった。市蔵は店先へ水をまき、最後に学校の旗を立てた。
七時半、ランドセルの列がやってきた。
子どもたちは新しくなった校舎を見上げ、商店街の人々へ「おはようございます」と声をそろえた。
列の最後の少女が、道端に残っていた小さな飴の包みを見つけた。しゃがんで拾い、近くの袋へ入れる。
市蔵は満足そうにうなずいた。
八時、町内会長が腕章をつけて現れた。
「ただいまより、清掃活動を開始します!」
全員が、積み上がった袋を指した。
「終わりました」
会長はしばらく黙り、開会の挨拶を閉会の挨拶へ変更した。
町内清掃は、確かに開催されなかった。
ただ誰かが一つ拾い、それを見た誰かも一つ拾っただけだった。
その朝、子どもたちが歩いた道には、ごみの代わりに、町が待っていた跡が残っていた。