番号を外したあと
柊木朔は、弦巻玲央の扉から真鍮の「8」をもぎ取り、自分の扉の「7」と入れ替えた。
玲央が拳を振り上げるより早く、朔は外した7を隣へ押し込み、二枚の留め具を掌で叩いた。解錠まで、あと五秒。二人の足首をつなぐ鎖は互いの扉まで届かず、玲央の指先は朔の襟をかすめただけだった。
「選んだあとに替えるのは反則だ!」
「その反則は、どこに書いてある」
このラウンドの規則は、天井に一行だけ投影されている。
――解錠時、より大きな番号が付いている扉の前に立つ者を勝者とする。
開始時、朔の前は七、玲央の前は八だった。玲央は迷わず八を選び、勝利を確信した。朔は扉よりも番号札を観察した。鋲に見えた留め具は、指で回せる化粧ねじだった。番号を毎回交換して撮影に使うためだろう。主催者にとっては舞台装置の都合にすぎない。
規則が判定する時点は「選択時」ではなく「解錠時」。対象も「八番扉」ではなく、「大きな番号が付いている扉」だ。ならば、数字がどの扉に付いているかは、最後の瞬間まで変えられる。
玲央は七になった札を引き剥がそうとした。だが、焦って爪を滑らせる。朔は自分の八を両手で押さえたまま、残り一秒の電子音を聞いた。
「扉そのものには番号なんてない。札が番号を与えているだけだ」
玲央は最後に札の上下を戻そうとしたが、朔はねじ穴へ自分の靴紐を通していた。力ずくで引けば札が壊れ、今度こそ玲央自身が器物損壊になる。彼の拳は宙で止まった。
ゼロ。
八の付いた扉が緑に光り、七の付いた扉から金属音が響いた。玲央の首輪が赤へ変わる。
スピーカーの司会者は「器物の移動」と言いかけ、言葉を止めた。破壊はしていない。二枚とも元のねじに収まり、むしろ舞台は整然としている。
朔の扉が開く。
「番号を選ばせたつもりだったんだろう」
彼は八の札を一度撫でた。
「でも、選ばせたのは札を付け替える時間だった」
判定灯は覆らず、玲央の抗議だけが閉じる扉の向こうへ残った。