白い箱の最後の一桁

安西祈里の最終出勤日は、白い箱が二つ並んだところから始まった。

医療機器卸の発送台。左は成人用の呼吸回路、右は小児用。箱の大きさも青い帯も同じで、品番の最後だけが六と九で違う。成人用は内径が広く、小児用の装置へは正しく接続できない。夜間、代替品の少ない病棟で開封してから気づけば、検査も処置も止まる。

新人が梱包した伝票には成人用の番号が印字されていた。届け先は小児病棟。祈里が過去の注文を開くと、同じ病院は半年間、小児用しか頼んでいない。数量も小児用の定期交換数と一致し、備考には体重別の使用予定まで残っていた。

「発注書が成人用になっています。書いてある通りに取りました」

新人の声が硬くなる。集荷まで八分。主任は、病院側の注文ミスならそのまま送れと言った。間に合わなければ翌日便になる。

祈里は出荷を止め、病棟へ電話した。担当者は品番を読み上げたあと、すぐに息をのんだ。前月の成人病棟向け発注書を複製し、数量だけ変えていたのだ。

「止めてくださって助かりました。今夜使う分で、病棟の予備はありませんでした」

電話の向こうでは、今日中に必要な患者がいるという。祈里は集荷担当へ待機を頼み、代替品の滅菌期限と封の状態まで確かめた。

祈里は小児用へ差し替えた。新人には、伝票を疑えとは言わなかった。届け先と過去三回の品目が違うときだけ、確認画面が出るよう設定する。棚札にも〈成人〉〈小児〉を文字ではなく、大きな輪郭図で示した。

「一桁を覚える仕事にしないでおこう」

箱を閉じる新人の手が、少しだけ軽くなった。祈里は二つの箱を離れた棚へ移し、取り違えた場合に端末が音だけでなく商品名を読み上げる設定も申請した。

主任は集荷車を見送りながら、祈里へ残留手当の書類を差し出した。退職者が続き、あと三か月だけでもいてほしいという。

祈里は来週から、病院の物品管理室で働く。売れた数ではなく、使う場所まで届いたかを確かめる仕事だ。条件は良くなるとは限らない。それでも、誰かが最後の一桁に気づくことを祈る職場より、間違いに気づける流れを作る方へ行きたかった。

祈里は残留書類を返した。転職先から届いた初週の担当表を開き、〈小児病棟の定数確認〉へ自分の名を入れて返信する。

白い箱は正しい棚から、正しい病棟へ向かっていった。