白角鹿の狩猟札

王家の保護林に角笛が響き、白角鹿が一本の矢で倒れた。

矢を放ったガルネッサ・ヴォルグ侯爵夫人は、畑を踏み荒らした騎馬隊を振り返りもしなかった。森番トゥリオ・セヴァンが道を塞ぐと、彼女は血のついた手袋で頬を打つ。

「平民の森番が、私の狩りを止めるの?」

「白角鹿は王家指定の繁殖獣です。狩猟札にも禁止とあります」

「札など、書き換えればよいわ」

夫人は胸元から許可証を抜き、裏面の獲物欄へ〈白角鹿一頭、害獣駆除〉と書き込んだ。さらにトゥリオへ命じる。

「目撃者欄に署名なさい。鹿が村を襲ったことにするの。拒めば、おまえの父親の小屋を森ごと焼くわ」

トゥリオは羽根筆を受け取ったが、自分の名ではなく〈署名強要を受けた〉と記した。夫人は読まずに許可証を奪い返し、侯爵家の赤印を押す。

「これで正式な駆除よ。王都の腰抜け役人に見せておきなさい」

森の奥で、枝が三度鳴った。

現れたのは王立森林裁判所の監察騎士たちだった。先頭の判事は、まったく同じ許可証を手にしている。

王家の狩猟札は、文字を書き足すたび、裏面の鏡紙が中央庁へ同時転写される。転写には時刻も残る。白角鹿が倒れたのは正午一分。〈害獣駆除〉と追記されたのは正午七分。死骸を見てから理由を作ったことが、六分の差で示されていた。

「その紙は偽物よ!」

「では、こちらの音声も偽物でしょうか」

判事が鏡紙へ触れる。〈札など、書き換えればよいわ〉という声が、森じゅうに澄んで響いた。夫人自身が強く押した赤印が、音声記録の封を完成させている。

騎馬隊の者たちは一歩ずつ離れた。白角鹿の脇には、踏み潰された麦畑と、夫人の紋入りの矢がある。トゥリオは折れた柵を起こし、怯えていた子鹿を森へ返した。畑の持ち主たちは折れた麦の間から白い角を見送り、誰一人夫人へ頭を下げなかった。

判事は許可証を丸めず、証拠袋へまっすぐ収めた。

「ガルネッサ・ヴォルグ。王家保護獣の密猟、証拠改竄および証人脅迫の容疑で、森林裁判所は貴殿の逮捕を命じる」