相談料の桁

十年ぶりの同窓会で、宮地野統哉は真砂怜司の肩を軽く叩いた。

「まだ人前で話すの苦手? 法学部へ行ったって聞いたけど、町の司法書士くらいにはなれた?」

怜司は眼鏡を外していた。仕立てのよい灰色のスーツに、静かな笑み。学生時代の細い輪郭はそのままなのに、伏せていた顔が上がっただけで別人に見えた。

「法律の仕事はしてるよ」

「俺も今は事業部長。会社を買う側だから、弁護士なんて毎月使ってる。相談料、一時間三万くらいだろ?」

宮地野は周囲へ聞かせるように言った。昔も同じだった。怜司が答える前に代わりに答え、黙っていることを無能の証明にした。

会場は外資系ホテルの最上階だった。宮地野は自社が海外企業と大型提携を結んだ話を繰り返し、今夜もその祝杯だとグラスを上げた。

そこへ、宮地野の会社の社長が外国人役員を伴って入ってきた。

「真砂先生、お待たせしました」

社長は宮地野を素通りし、怜司へ握手を求めた。

宮地野の笑顔が止まる。

怜司は国際企業法務を扱う法律事務所の共同代表だった。二十か国にまたがる今回の提携をまとめ、破談寸前だった交渉を成立させた担当弁護士でもある。経済誌の特集画面には、若手パートナーとして紹介された彼の写真が映った。年収は宮地野が自慢した額の十倍を超えていたが、怜司は一度も口にしなかった。

社長が宮地野へ向き直る。

「君も先生へ挨拶を。明日からの統合委員会は、真砂先生の指示で進める」

「え、でも、こいつは昔から何も言えなくて……」

外国人役員が通訳を待たず、日本語で答えた。

「必要なときに、必要な一言を言える人です。あなたの百倍、交渉が上手い」

怜司は名刺を一枚渡した。肩書の下に、宮地野の会社の統合責任者と印字されている。

宮地野は震える声で尋ねた。

「相談料、本当にいくらなんだ」

怜司は少し考えた。

「今夜の君の相談は無料にするよ」

社長が統合後の役職見直し資料を机へ置く。審査責任者欄には、怜司の署名。宮地野はそこで初めて、自分が話しすぎたことを知った。