眠りから戻る町
午前零時を回ったころ、品質管理室に最後の不具合票が届いた。
〈本体を眠らせてから再開すると、町の住人が全員消える〉
明朝の審査提出までに、重大な不具合が一件でも残れば延期になる。担当になったテスターの魚住玻奈は、まず書かれていた再現手順を試した。宿屋で保存し、本体を休止し、十秒後に戻す。住人は消えない。
「再現しないなら閉じてもいいだろ」
責任者が言った。残り時間は少ない。だが玻奈は、不具合票の添付画像に、宿屋の時計が午前五時を示していることに気づいた。投稿者は時刻を書いていない。
ゲーム内の一日が切り替わる直前に保存し、休止中に日付を越えさせた。再開すると、広場から人影が消えた。
セーブデータには住人の位置が記録される。一方、再開時にはその日の配置も読み直す。日付をまたぐと古い位置を消してから新しい配置を呼ぶはずが、休止復帰だけ順番が逆だった。新しく呼んだ住人を、古い住人としてまとめて消している。
プログラマーは「消す処理を外せば直る」と言った。玻奈は首を振り、別の町へ移動してから戻る試験を加えた。消す処理を外すと、住人が二人ずつに増える危険がある。
「順番を直してください。その後、日付越えと町移動を一組で確認します」
修正版のパッチが届いたのは午前三時半だった。玻奈は同じ手順を三度、違う町で繰り返した。住人は朝になると家から出て、夜になると帰った。増えも減りもしない。
責任者は不具合票を閉じようとしたが、玻奈は再開直後の自動保存まで待った。そこで電源を落とし、もう一度起動する。町は無事だった。
「そこまでやる?」
「消えた直後に壊れた状態が保存されていたら、修正後も戻せません」
午前五時五十分、票には〈解決〉の印が付いた。窓の外で始発が動き始める。
玻奈が検証機を片づける前に、新しい通知が鳴った。
〈雨の日だけ、犬が空を歩く〉
町の住人は戻ったばかりだった。玻奈は席に座り直し、今度は天気の変わる時刻を調べ始めた。