眠れない聖騎士団

「子守歌しか歌えぬ聖女は、魔王討伐には不要だ」

聖騎士団長ジルグがネフェリアへ退団を命じた、その夜だった。

百人の騎士が、一人も眠れなかった。

目を閉じると、枕元で亡者が名前を呼ぶ。眠りに落ちた者は叫びながら剣を抜き、隣の寝台へ斬りかかった。灯りを増やしても、鎧を着たまま横になっても、悪夢は瞼の裏から入り込んだ。

夜明けの訓練で、騎士たちは槍を落とした。三日三晩戦えると豪語していた副団長が、木馬から転げ落ちる。治癒術は疲れた筋肉を癒やしても、失われた眠りを戻せない。

「敵の呪いか!」

神官長は寝室の梁を見上げ、ようやく白い糸が消えていることに気づいた。ネフェリアは毎晩、就寝の鐘に合わせて《安息の幕》を宿舎へ張っていた。夢魔だけを弾く、薄く小さな加護。騎士たちは眠れて当然だと思い、その祈りを聞くたび「また子守歌か」と扉を閉めていた。

二晩目、騎士団は遠征を延期した。眠気で馬を操れず、出発前の中庭だけで三件の衝突事故が起きたからだ。

眠り薬も試された。騎士たちは目だけ閉じたが、悪夢の中で身体を動かし、寝台の脚を折った。薬が切れた者から吐き気と震えに襲われ、遠征先へ納めるはずだった護衛契約には遅延の赤印が押された。戦わずして、騎士団の信用だけが削られていった。

一方ネフェリアは、戦災孤児院の大部屋で、二十七の寝息を聞いていた。院母ソマが、朝まで泣かなかった幼子を抱き上げる。

「この子は砲声の夢で毎晩起きていたの。薬では眠れなかった」

「夢を消したのではありません。怖い夢が扉を叩いても、今夜は入れないようにしただけです」

孤児院は彼女へ客室ではなく、礼拝室と正式な寝台を用意した。朝には近隣の療養院からも依頼が届いた。

そこへ騎士団の早馬が駆け込み、泥だらけのジルグが床へ膝をついた。

「戻ってくれ。遠征が始められない。望む地位を与える」

ネフェリアは眠る子を起こさぬ声で答えた。

「騎士団の安息祈祷契約は、私を除名した鐘とともに終了しました」