移住枠は五百名

仮想国家ラドでは、死者は投票できない。サーバー停止まで十四日と告げられた朝も、住民はいつも通り市長の御舟初瀬に答えを求めた。

移住先の新サーバーが受け入れられるのは五百名。人口は六万。抽選にすれば公平だが、医師も教師も一人も残らない可能性がある。技能順なら、幼児や老人はほぼ落ちる。

初瀬は昼夜を問わず名簿を見た。自分の名前には市長権限で優先印がついていた。移住先で統治を続けるためだという。

八日目、ひとりの老女が役所へ来た。

「私は外してください。孫を入れて」

「譲渡は認められていません」

「この世界が終わるなら、規則も一緒に死ぬでしょう」

翌日から、同じ願いを持つ人が列を作った。夫から妻へ、師から弟子へ、知らない子どもへ。だが譲渡を許せば、命が売買される。初瀬は全て断った。

初瀬は一晩、名簿の先頭から最後まで声に出して読んだ。六万の名前には、犯罪歴も納税額も書かれていたが、雨の日に誰へ傘を貸したかは記録されていない。数値で選ぶほど、自分が市長ではなく選別装置になっていく気がした。

停止三日前、彼女は選定方式を発表した。五百名を選ぶのではなく、住民全員の記憶と人格を一人ずつ五百分の一に圧縮し、五百の共同人格として移住させる。誰も完全には残らず、誰も完全には消えない。

議場は怒号に包まれた。自分でなくなるくらいなら死ぬ、と人々は叫んだ。

初瀬もそう思った。だから市長権限の優先印を消し、最初の実験体になった。目覚めた彼女の中には、パン職人の手つき、老女の子守歌、少年の片思いが同時にあった。自分の声が群衆のように響いた。

「怖いです」と五百人分の初瀬は言った。「でも、怖いのは私だけではありません」

最終日、六万人は自ら選んだ五百の器へ分かれた。完全な御舟初瀬は消えた。

新世界で最初の市長選挙が始まったとき、彼女だった人格は立候補しなかった。代わりに投票所の案内係になった。

一票を入れるたび、内側の誰かが泣き、誰かが笑った。初瀬はようやく、代表するとは先頭に立つことではなく、多すぎる声を消さずに運ぶことだと知った。