穴のない六枚目
鷹取廉之介は、顕の家へ本棚を組みに来た。
顕は亡くなった母の兄でも、法律上の父でもない。母が入院した中学二年から大学を出るまで、廉之介を住まわせた元担任だ。就職を機に家を出たあと、二人は連絡を絶っていた。顕が進路を勝手に決めたと、廉之介が怒鳴ったからだ。
通販の本棚は、部品が一枚多かった。
「側板じゃないか」
「説明書には棚板五枚。ここに六枚ある」
「得したな」
「入らない物は得じゃない」
二人は床に膝をつき、木ねじを締めた。顕は相変わらず説明書を読まず、廉之介は相変わらずねじを種類ごとに並べる。
本棚を起こすと、天井につかえた。寸法を測ったのは顕だった。
「二センチくらい誤差だ」
「家具にとっては致命傷」
廉之介は上板を外し、脚のフェルトを剥がした。それでも五ミリ足りない。結局、最下段の台輪を切ることになった。のこぎりを引く顕の手は、以前より細くなっていた。
切り終えるころ、顕が言った。
「お前の大学、あそこしか払えなかった」
「今さら言うな」
「言わない方が格好がつくと思った」
「一番格好悪いやつだ」
本棚はようやく壁際へ収まった。顕が箱から本を出す。教育書、推理小説、古い辞書。顕が毎年買い替えると言いながら残した古い旅行案内まである。最後に、廉之介が高校時代に集めていた建築雑誌が十冊現れた。
「捨ててなかったのか」
「棚板が余ったからな」
顕は六枚目を床へ置いた。本棚には取り付け穴がなく、使い道はない。
廉之介は工具箱から金具を二つ探し出し、壁の低い位置へ棚板を固定した。雑誌十冊を並べても、横にまだ空きがある。
「勝手に穴を開けるな」
「賃貸じゃないだろ」
廉之介は鞄から、仕事で使う薄いファイルを一冊抜き、その空きへ立てた。持ち帰るつもりだったが、次の現場でまた必要になる。
玄関を出る前、顕が「いつ取りに来る」と聞いた。
廉之介は靴紐を結び直した。
「必要になった日。だから、その棚に物を積むなよ」
扉が閉まる直前、本棚の一番下に自分のファイルが見えた。顕の家の中で、それだけが新しい背表紙だった。