立入禁止の昼休み
学年一位は、屋上でカップ焼きそばを食べていた。
しかも湯切りに失敗して、靴下まで濡らしていた。
「見なかったことにして」
屋上の扉を開けた僕に、委員長は真顔で言った。教室ではいつも姿勢がよく、先生の質問には教科書より整った答えを返す。その委員長が、片足でぴょんぴょん跳ねながら靴下を脱いでいる。
僕は扉を閉めた。
「もう見た」
「記憶から消して」
「無理」
昼休みの終わりまで、あと十二分。僕は授業をサボるつもりで屋上へ来た。委員長は誰にも見つからず昼食を済ませるつもりだったらしい。
理由を聞くと、彼女はフェンスの外を見た。
「毎日、誰かと食べるのが疲れるだけ」
その答えは意外だった。彼女の周りにはいつも人がいる。ノートを借りたい人、進路を相談したい人、班分けで頼りたい人。委員長は頼られるたび、同じ笑顔で応えていた。
「一人で食べればいいじゃん」
「一人でいると、『大丈夫?』って来るでしょ」
たしかに来る。僕も、今まさに来た側だった。
屋上にはベンチがない。僕らはコンクリートに座り、彼女の伸びきった焼きそばを分けた。僕のパンと交換したのだ。風が青のりを飛ばし、委員長の白いシャツに点々とついた。
「それ、教室で見られたら終わるな」
「何が?」
「完璧な委員長像」
彼女は自分の胸元を見下ろし、急に笑い出した。肩を震わせ、声を押し殺す笑い方だった。僕もつられて笑った。チャイムが鳴っても、二人とも立てなかった。
五時間目は数学だった。教室へ戻ると、先生が腕を組んでいた。
「二人そろってどこへ行っていた」
委員長は一秒だけ僕を見た。僕は「保健室」と言いかけた。
「屋上で焼きそばを食べていました」
彼女が堂々と言ったので、教室がざわついた。
「立入禁止だぞ」
「知っています。あと、湯切りに失敗しました」
今度は教室中が笑った。先生まで口元を隠した。
放課後、委員長は僕の机に紙を置いた。『秘密保持契約書』と題され、第一条に「青のりについて口外しないこと」と書いてあった。
僕は署名して返した。第二条を勝手に付け足して。
『疲れた日の昼休みは、互いに大丈夫か聞かないこと』
翌週、屋上の扉の前で彼女は二つのパンを持って待っていた。
「今日は湯切り不要」
僕らは立入禁止の向こうで、誰にも心配されずに昼休みを過ごした。