答案の黒い点

奨学生選抜試験で満点を取った翌日、佐伯原郁登は校長室へ呼ばれた。

机には二枚の答案があった。一枚は郁登のもの。もう一枚は、模範解答の原稿だった。文章問題の句読点まで一致している。

「採点前の原稿を見たね」

進路主任の柊木原遼輔は断定した。郁登と奨学金を争っていた優等生の父でもあった。

郁登は首を振った。原稿保管庫へ入ったことはない。それでも柊木原は、郁登のロッカーから模範解答のコピーが見つかったと言い、辞退届を差し出した。

郁登は二枚の紙を窓へ透かした。

「先生、この黒い点は何ですか」

紙の隅に、肉眼では埃にしか見えない点が並んでいる。校長は事務職員を呼んだ。職員は顔を曇らせた。

学校の複合機は、印刷日時と機械番号を識別する極小の追跡点を自動で付ける。情報漏洩対策として、前年から導入されていた。

解析すると、郁登のロッカーから出たコピーは、試験当日の午前七時十二分、進路指導室の複合機で印刷されていた。利用者カードは柊木原のもの。さらに廊下の監視映像には、七時十八分、柊木原が郁登のロッカーを開ける姿が映っている。

柊木原は「指導資料を入れただけだ」と言った。

事務職員が、もう一枚の解析結果を示す。郁登の答案用紙にも同じ黒い点があった。ただし印刷時刻は試験終了後の午後一時四十分。答案用紙は本来、前日に一括印刷され、別の点列になるはずだった。

つまり、柊木原は郁登の本物の答案を回収後に差し替え、模範解答を写した偽物を作っていた。

保管室の監視映像には、封筒を開けて用紙を交換する姿まで残っていた。柊木原の息子の答案だけが、差し替え前の封筒から抜かれている。

校長は辞退届を破り、選抜委員を緊急招集した。柊木原には職務停止が命じられ、息子の奨学生資格も審査対象から外された。

事務職員が郁登の本物の答案を金庫から取り出す。そこには満点ではなく、九十八点と記されていた。

校長が苦笑した。

「これが君の実力だ」

奨学生決定欄へ佐伯原郁登の名が入力された瞬間、紙の隅の黒い点は、偽りの満点より確かな無実を示した。