紙おむつは返品できます
璃々の部屋に、紙おむつが六箱届いた。
玄関からベッドまでの通路が埋まり、宅配員は申し訳なさそうに「定期便です」と言った。送り状の宛名の下には、兄の字で〈父介護用品・璃々宅保管〉とある。
璃々は一箱も開けず、兄へ電話した。
「どうして私の住所にしたの」
『実家は狭いし、お前のところなら駅から近いだろ。必要なとき運んでくれればいい』
「聞いてない」
『こういうのは女のほうが分かるだろ』
璃々は玄関に腰を下ろした。父の下着を母と買いに行った十五歳の夏も、兄は店の外で待っていた。恥ずかしい仕事は、いつも「女のほうが」で璃々の手に渡った。
父を嫌っているわけではない。先月の通院では、待合室で昔の野球の話を聞いた。だからこそ、会う時間を運搬と在庫管理だけで埋めたくなかった。箱の側面に印刷されたサイズも、璃々には一度も確認されていない。
「分からないし、保管もしない。今日、返品手続きをする」
『親父が困るぞ』
「困らないように、配送先を実家か施設へ変えて。収納がないなら、ケアマネさんと量を相談して」
兄の声が硬くなる。『俺は仕事があるんだよ』
璃々は、箱で塞がれた仕事用の机を見た。
「私にもある。独身だから空いている部屋も、空いている時間もない」
電話を切る前に、次回からの手配担当を兄に戻すこと、璃々は月一回の通院だけ同行することを伝えた。兄は「勝手だな」と言ったが、最後には定期便の会員番号を聞いた。
回収業者が来るまで、璃々は箱に赤い付箋を貼った。〈未開封〉〈誤配送〉。一枚だけ、〈娘宅〉と印刷された部分を太い線で消した。
夕方、六箱が順に運び出される。玄関の床が現れ、璃々は靴を一足、いつもの位置へ戻した。
兄からメッセージが届いた。
〈次回から実家。二箱ずつに変更した〉
謝罪はなかった。璃々も礼を言わず、〈確認しました〉と返した。
紙おむつは必要なものだ。父の介護も、誰かが担わなければならない。けれど必要であることと、無断で璃々の部屋へ置いてよいことは同じではない。
回収票を折って引き出しへしまう。返品できたのは六箱だけではなく、兄が貼った担当者という宛名でもあった。