細いウエストの午後十一時
莉緒は風呂上がりの髪をタオルで巻いたまま、ベッドの端に座っていた。ドライヤーを使う前の五分だけ、と思って開いたSNSには、運動着姿の女性が並んでいた。
〈三か月でマイナス五キロ〉
〈夜は炭水化物を控えています〉
〈自分を好きになるための習慣〉
おすすめ欄は、莉緒の体を見たこともないのに、直すべきところをよく知っているようだった。
洗面所の鏡で見た自分の腹部を思い出す。座れば折れる。夕食に食べたクリームパスタは、コンビニの新商品だった。カロリー表示を見ないようにして買ったのに、容器を捨てるとき、結局数字を読んだ。
画面の女性は、細い腰に手を当てて笑っていた。コメント欄には「努力の結果ですね」「私も頑張ります」。莉緒も何度か保存した宅トレ動画がある。保存した数だけなら、腹筋はもう割れていてもよかった。
ドライヤーを持ち上げる気力がなく、濡れた髪先からパジャマへ水滴が落ちた。テーブルにはデザートとして買った小さなプリンが残っている。今日は食べないほうがいい。明日の朝に回せばいい。そう考えた瞬間、プリンがご褒美ではなく試験問題になった。
莉緒はスマートフォンを伏せ、冷蔵庫を開けた。透明なふたの向こうで、カラメルが揺れる。賞味期限は明日。今食べても、明日食べても、プリン一個ぶんの何かが劇的に変わるわけではない。
スプーンを入れると、表面が静かに割れた。甘さは想像より控えめで、風呂上がりの乾いた喉に冷たかった。
自分を好きになるため、と投稿には書いてあった。莉緒は、自分を好きになる前に、自分を監視するのを一晩休んでもいいのではないかと思った。好きになれなくても、敵にしないくらいならできる。
おすすめ欄の設定から、体形に関する投稿をいくつか「興味なし」にした。世界から消えたわけではない。明日になればまた別の細い誰かが出てくるだろう。
それでも今夜の画面には、プリンの空容器と、乾かしていない髪の自分だけが残った。
莉緒はドライヤーを弱風にした。全部きれいに乾かさなくても、枕が少し濡れるくらいで済む。運動もしなかったし、デザートも食べた。それでも今日は、体を一日運んだ。
その働きには、プリン一個くらい払ってよかった。