罠師を待つ焚き火
罠師のサフィは、遺跡の床に刻まれた月印を見落とした。
踏み込んだ途端、階段が崩れ、宝物庫への道が瓦礫で埋まった。依頼主が望んだ王冠は、もう取り出せない。
「報酬はゼロだな」
槍士オルヴァンの呟きに、サフィの喉が縮む。前の一団では、報酬を減らした者から食事を抜かれ、最後には魔物の囮にされた。
帰路、誰も話しかけてこなかった。
月印は古代王家の紋章と習った。罠の印だとは資料の端にもなかった。それでも、見抜くのが罠師の仕事だ。サフィは瓦礫の隙間から王冠の青い光を見て、自分の判断が報酬だけでなく三人の苦労まで埋めたと思った。
帰路では、オルヴァンが先頭で魔物を払い、メイラがサフィの擦り傷に薬を塗り、タヴィが道具箱を半分持った。見捨てる相手にも最後の世話くらいはするのだ、とサフィは勝手に意味を決めた。
宿営地に着くと、オルヴァンは森へ消えた。治癒術士メイラは鍋を火から下ろし、獣人斥候のタヴィは荷車を引いて街道へ向かった。
やはり置いていくのだ。
サフィは自分の道具箱だけを持ち、焚き火が消える前に立ち去ろうとした。
その時、森から戻ったオルヴァンが槍を地面へ突き立てた。穂先には、遺跡と同じ月印が刻まれた石片が刺さっている。
「別の入口を見つけた。明日、お前に見てもらう」
メイラは鍋を戻し、サフィの椀へ底に残していた肉を二切れ入れた。
「冷めるから、反省は食べながらにして」
街道から戻ったタヴィは、荷車の車輪を焚き火の横へ固定した。
「馭者に朝まで出すなと言ってきた。お前の箱を積む場所も残してある」
サフィは道具箱を抱えたまま立ち尽くす。
「王冠を取れなかったのに」
「今日はな」
オルヴァンが焚き火の向こう側へ座る。
「明日は取る。そのための罠師は、もういる」
メイラが隣の丸太を叩き、タヴィが荷車の鍵を火のそばへ置いた。
サフィが丸太へ座ると、メイラは椀を渡し、タヴィは道具箱を彼女の足元へ戻した。
サフィは逃げるために握っていた箱を開く。三人の影が蓋の内側に映った。
焚き火は四人分の距離を残して燃え、誰一人、朝を待たずに立ち去らなかった。