茉莉花の茶会を終わらせて
春の大茶会は、茉莉花で統一されていた。
卓上の花、菓子の香り、茶葉まで同じだ。オリアは席へ着いてほどなく、こめかみが脈打つのを感じた。茉莉の強い香りで頭痛を起こすが、地方出身の彼女が王都の流行を嫌うと言えば、また笑われる。
向かいのヴェルノン宰相が、彼女の瞬きに気づいた。
「花を下げろ。茶も替えろ」
主催の公爵夫人が扇を止める。
「宰相閣下、今季の主題でございます」
「彼女には頭痛の種だ」
ヴェルノンは政敵を一言で失脚させる冷徹な宰相である。その男がオリアの前にだけ、香りの弱い白茶と冷やした布を用意させた。
「額へ当てるか」
「自分でできます」
「そうか」
彼は触れずに布を卓上へ置いた。以前、頭痛のときに人から顔へ触れられるのが苦手だと話したことも覚えている。
花が撤去されると、招待客の一人が鼻で笑った。
「田舎の蕾一つのために、王都の花園が台無しね」
オリアは聞こえないふりをした。ところが公爵夫人は、場を収めるため彼女へ言う。
「皆さまに一言、謝ってくださる?」
「私は謝りません」
自分でも驚くほど、声は明瞭だった。
「体調を崩さないために花を下げてもらったことは、無礼ではありません」
公爵夫人の笑みが薄くなる。
「宰相閣下の寵愛がなければ言えない台詞ですこと」
ヴェルノンが杯を置いた。
「違う。彼女の権利だから言える」
「ですが茶会の雰囲気が」
「雰囲気は人を守らない」
宰相はオリアへ向き直る。
「続けて茶を飲むか。帰るか」
「白茶を一杯だけ飲みたいです」
「そうしろ」
公爵夫人は、ではオリアを今季の「宰相の花」として紹介し直すと提案した。ヴェルノンの目が冷える。
「彼女を花にするな。名はオリアだ」
その場で招待者名簿が訂正される。
ヴェルノンは窓を開けるか、席を庭へ移すかもオリアへ尋ねた。
「今の席で大丈夫です。香りが消えれば」
「分かった」
彼は良かれと思って彼女の居場所まで変えず、選ばれた範囲だけを整えた。その慎重さを見て、笑っていた客たちも口を閉ざした。
「本日の主題は終了する。オリアに謝罪も称号も求めるな。彼女が不快だと言える席でなければ、私も二度と出席しない」