被弾するほど近い出口
仁科バンリは、巨人の拳を避けずに胸で受けた。
《被ダメージ:0》
《強制接続残り時間:48分→41分》
「正気か、バンリ!」
仲間が叫ぶ。この迷宮ではHPが減らない代わりに、攻撃を受けるたび《強制接続残り時間》が短くなる。誰も意味を知らず、残り時間がゼロになるとアカウントが消えると恐れていた。だから全員、無傷で巨人を倒そうとしてきた。
だがログアウトボタンは灰色のまま、その横に一文だけ表示されている。
《強制接続中は終了できません》
バンリは三発目を受けた。残り三十二分。痛みはゲーム内より、現実側の身体から突き上げてくる。電気が走るような刺激、遠くで名前を呼ぶ声。
巨人の腕には、攻撃名が刻まれていた。
《右拳:呼吸刺激》
《左拳:末梢神経刺激》
《踏圧:心臓刺激》
モンスターの技名にしては奇妙だった。攻略班は開発者の悪趣味だと片づけたが、バンリには病院で聞いた言葉のように思えた。
四年前、彼は事故で意識を失い、この世界へ転移した。正確には、意識を保つため試験中のVRへ接続された。ログアウト不能なのではない。現実へ戻れる状態になるまで、切断を禁じられていたのではないか。
「残り時間を守るな。減らせ!」
仲間は動けない。ゼロが死を意味するという思い込みは強い。バンリは一人で巨人の前へ立ち続けた。
二十分。十一分。三分。
最後の拳が振り下ろされる。視界が白く弾け、残り時間は《00:00》になった。
巨人が膝をつく。勝利表示は出ない。代わりに、黒かった空が病室の天井へ透けていく。誰かが彼の胸へ電極を当て、何度も呼びかけている。
「戻ってこい、仁科!」
バンリはゲームの剣ではなく、自分の指を動かした。
巨人の顔には怒りがなかった。一撃ごとに、現実の医療機器らしい数値を確認し、次の刺激を弱くしたり強くしたりしている。バンリは敵の拳ではなく、長い眠りの外から差し伸べられた手を受けているのだと確信した。
《強制接続時間が終了しました》
《被ダメージとして表示されていた刺激は、外部医療チームによる覚醒処置です》
《ボス討伐失敗――患者覚醒成功。ログアウトを実行します》