誰も飢えないパン窯

石造りの共同窯は大きいのに、冬になると三軒しか使えなかった。

薪を多く持つ家が朝から火床を占め、貧しい家の生地は順番が来る前に酸っぱくなる。新任の執政官イリナが窯場を訪ねた日も、未亡人のリズが灰色の生地を抱えたまま立っていた。

「窯税を払えない者は帰れ」

窯番が言う。税はパン一個につき銅貨二枚。だが壁の料金札は煤で塗り潰され、裕福な家は一枚も払っていなかった。

イリナは窯番を追い出さなかった。代わりに煤を落とし、白い漆喰へ新しい規則を書いた。

一、窯税は生地十個につき一個分の薪。

二、薪を出せない者は、灰かき一回で十個まで焼ける。

三、焼く順番は受付札の番号どおり。

四、領主館のパンも例外なし。

「冬備えはどうするんだ」とパン職人が尋ねる。

「各回、一個だけ共同棚へ。出した者の名と個数をここへ書きます。吹雪の日は家族の人数に応じて返します」

イリナは領主館から運ばせた白パン生地を最後尾へ置いた。香辛料も乳も入った生地が、粗麦の塊の後ろで静かに待つ。

それを見た薪商人が、荷車一台を窯脇へ下ろした。

「代金はいらん。代わりに、うちの老母の番号札を取ってくれ」

粉屋は余ったふすまを持ち込み、陶工は壊れた焼き床を直した。リズは誰にも頼まれず、受付札へ穴を開ける係を始めた。番号を飛ばそうとする者がいれば、子どもたちが声を上げた。

昼過ぎ、地主の料理人が番号札を隠して窯口へ白い生地を押し込もうとした。窯番だった男が反射的に道を空ける。

だが、灰まみれの子どもが壁を指した。

「その札、二十七番。いまは九番だよ」

料理人は怒鳴れなかった。領主館の生地さえ最後尾にある。イリナは何も命じず、ただ二十七番の釘を示した。料理人は黙って生地を戻し、それから九番の老婆の薪を窯へ足した。

夕方、リズの黒パンが最初に焼き上がった。焦げ目の割れ目から湯気が立つ。彼女は一個を共同棚へ置き、残りを胸に抱えた。

最後にイリナの白パンが窯へ入る頃、棚には丸いパンが家の数だけ並んでいた。

窯番だった男が、新しい木札を入口へ打ちつける。

――一番札から焼く窯。

その下で、誰のものでもない冬のパンが、同じ温度で冷めていった。