赤いバッテリーは午前零時
二十三時四十七分、榛名景吾の監視端末に赤い通知が点滅した。
〈五十二歳のあなたより。午前零時までラックCを落とすな〉
首都圏最大のデータセンター。ラックCには動画配信、決済、ゲーム、行政クラウドが相乗りしている。夜勤責任者の景吾は、予備電源の赤いバッテリー表示を見た。残量十三分。
「負荷を切り分けます」
新人の声に、未来の通知が重なる。
〈ラックCを落とすな〉
景吾は空調を止め、照明を落とし、別棟の電源まで借りた。零時直前、ラックCは生き残った。だが外で変電設備が破裂し、白い閃光が窓を塗りつぶした。
次に気づくと二十三時四十七分。バッテリーは十三分。新人が同じ台詞を言う。
「負荷を切り分けます」
二度目は行政系を残して娯楽系を落とした。三度目は決済を優先した。差分は停止するサービス名だけで、変電設備は必ず零時に燃え、時間は戻った。
二十一回目、景吾は電力系統図の薄い灰色線に気づいた。ラックCだけ、非常時にも一般送電網へ電力を逆流させる契約になっている。会社は「無停止率世界一」を守るため、地域の蓄電設備を無断で吸い上げていた。未来の景吾はその実績で役員になっている。添付された未来の社内報で、彼は赤いバッテリーを背景に笑っていた。
成功条件はラックCの稼働ではない。無停止の記録を未来まで残すことだ。
二十三回目。
「負荷を切り分けます」
「いや、全部切る」
景吾は非常停止鍵を回した。ラックCのランプが、上から順に黒くなる。配信は途切れ、決済は保留になり、オンラインゲームでは数百万人が同時に切断された。損害予測は百億円を越え、端末には〈責任者への請求対象〉と表示された。
未来から通知が連打される。
〈やめろ〉
〈役員になれない〉
〈家も退職金も失う〉
景吾は系統図と契約書を監督官庁、電力会社、顧客各社へ送信した。最後に自分の管理者資格を失効させる。解除には取締役会の承認が必要で、未来の自分も二度と同じ操作を命じられない。
零時。赤いバッテリーは残量ゼロになった。
窓の外は暗いまま、変電設備は燃えなかった。時計が零時一分へ変わる。館内放送が損害対応班の招集を告げた。
景吾は社員証を机に置いた。赤い通知の代わりに届いたのは、懲戒調査開始の白いメールだった。
それを開くと、今度は時間が先へ進んだ。