赤いパーカーの午後

集合場所にいた赤いパーカーの子を、私は最初、別の学校の生徒だと思った。

フードから短い髪を出し、黒いパンツに白いハイカットの靴。いつも襟元まできっちり制服を着て、集合写真では端に立つ初音とは、色も輪郭も違って見えた。

「そんなに見る?」

声をかけられて、ようやく気づいた。

班別行動の記録係だった私は、首からカメラを下げていた。初音はレンズを見ると、反射的にフードを深くかぶる。

「撮らないで」

「記録係なんだけど」

「じゃあ、景色だけ」

同じ班の子たちは「派手」「意外」と言ったが、悪気のない感想ほど初音を困らせた。教室なら制服が先に目へ入り、本人の色を誰も尋ねない。今日は服から先に見られる。そのことが、彼女には舞台へ一人で出るように感じられたらしい。私は撮影係なのに、その怖さを最初は考えもしなかった。

その日の写真には、寺の屋根、抹茶の泡、案内板、鳩、同じ班の後頭部ばかりが増えた。赤いパーカーだけは、画面の端へ入るたびに逃げた。

夕方、集合時刻より少し早く駅前へ戻ると、初音が土産物屋のガラスに自分を映していた。フードを下ろし、髪を直し、また上げる。それを何度も繰り返していた。

「その服、嫌いなの?」

私が聞くと、彼女はガラス越しに首を振った。

「逆。好きすぎる。自分で選んだの、初めてだから」

家では姉のお下がり、学校では制服。赤は似合わないと言われそうで、朝からずっと誰にも見られたくなかったらしい。

私はカメラを構えずに言った。

「似合ってる」

初音はしばらく黙り、それから土産物屋の赤い提灯の前に立った。

「一枚だけ。変だったら消して」

撮った瞬間、彼女は目を閉じてしまった。けれど確認画面には、閉じた瞼と、ほどけたような笑顔が写っていた。

旅行が終わった月曜日、初音はいつもの制服で登校した。赤いパーカーはどこにもない。

ただ、机の下で揺れる白い靴の紐だけが、鮮やかな赤に替わっていた。

赤い靴紐の月曜日だけは、私はカメラを持っていなかった。だから、その一枚は今も記憶の中にしかない。