赤い実は嘘をつかない
宮廷園芸師ジョシュカは、赤実草を植えようとして追放された。
「毒々しい」「観賞にもならない」と笑われ、研究畑を取り上げられた彼に残ったのは、辺境の斜面と六粒の種だけだった。
百二十日後。
雨で倒れた支柱を結び直し、青虫を見つけるたび別の草へ移した。夜冷えの日には小屋の古布を被せた。六粒のうち芽吹いたのは四株で、そのうち実を結んだのは一株だけだった。
支柱に結んだ茎の先で、最初の実が真っ赤に熟れていた。
ジョシュカは籠を持ってきたが、すぐ置いた。
今日は一個だけ収穫すると決めていた。最初の実を急いで数に変えれば、王宮にいたころと同じになる。
指でへたを支え、少しひねる。
ぷつり。
赤い実は驚くほど素直に掌へ落ちた。日の光で温まり、青い葉の匂いをまとっている。磨く必要もないほど艶やかだった。
ジョシュカは秤を出しかけて、棚へ戻した。糖度を測る魔道具も、毒性を証明する鑑定石も要らない。まず自分が食べ、その味に責任を持てばよかった。
柵の外で、旅商人が馬を止めた。
「それを食うのか? 王都じゃ毒草だと聞いたぞ」
「王都は、食べたことのないものをよく知っているらしい」
ジョシュカは実を厚く切った。鉄鍋で玉葱を炒め、赤い切れ端を落とす。
じゅわっと水分があふれ、酸味のある匂いが立った。卵を一個割り入れると、黄と赤がゆっくり混ざった。
その間に、旅商人は鞍袋から一通の封書を出した。
「途中の宿で預かった。宮廷園芸局からだ。赤実草の栽培法を提出すれば、役職を戻すとさ」
封には、彼を追放した局長の印が押されていた。
ジョシュカは封書を裏返し、鍋敷きの脚の下へ差し込んだ。傾いていた鍋が、ぴたりと水平になった。
煮汁が静かにふつふつ鳴る。
木匙ですくって口に入れる。甘みのあとに明るい酸味が来て、卵のまろやかさが追いかけた。
旅商人も恐る恐る一口食べ、目を見開いた。
「種を売ってくれ。帰りに二十袋買う」
「実を食べ終えてから話そう。これは最初の一個だからな」
ジョシュカはパンをちぎり、赤い煮汁へ浸した。
宮廷からの書状は鍋を支えるだけで、食卓の中心にはなれなかった。中心にあるのは、誰にも信じられなかった実が放つ、湯気と確かな甘さだった。