赤ランプが二度点く

午後二時十四分、反応釜の赤い警告灯が二度だけ点滅した。

「圧力は規定内だ。再起動しろ」

工場長が瀬良伊織へ赤柄のレンチを渡す。台詞も、レンチの油染みも、前の人生と同じだった。

伊織が再起動ボタンを押した三分後、釜は爆発した。兄を含む夜勤班十二人が巻き込まれ、会社は「操作員の手順違反」と発表した。伊織は責任を背負わされ、真相へたどり着いた頃には、守るべきものが何も残っていなかった。最後に兄から届いた《今日も一緒に帰ろう》という短い文だけを、壊れた端末から何度も読み返した。

二度目の午後二時十四分。

伊織はレンチを受け取ると、再起動盤ではなく、壁際の手動排圧弁へ走った。

「待て! 生産が止まる!」

「止めます」

「警告灯は誤作動だ!」

「一度目も、そう言いましたね」

伊織は封印針金をレンチで切った。工場長が肩をつかむより早く、排圧弁を半回転させる。白い蒸気が隔離配管へ走り、計器の針が急降下した。

その直後、反応釜の背面で鈍い破裂音がした。

外からは見えない温度センサーの根元が裂け、腐食した金属片が防爆壁へ突き刺さる。再起動していれば、そこから薬液が噴き、静電火花で全棟が吹き飛んでいた。

「兄さん、全員を外へ!」

伊織の叫びに、夜勤班長の兄・慶一が迷わず非常サイレンを押した。前の人生では彼が「命令に逆らうな」と伊織を止めた。今度は違う。

「了解。全員退避、瀬良の指示に従え!」

工場長が青ざめる。

「そんなはずは……点検記録では交換済みだ」

伊織は床に落ちた金属片を拾った。刻印は十年前の製造番号。交換費用を横領した者が、偽の記録を作っていた証拠だった。

午後二時十七分。前の人生で最初の爆発が起きた時刻。

耳をつんざく轟音は来ない。代わりに、構内放送が流れる。

《重大事故を未然に防止。全作業員の生存を確認》

兄が隔離扉の向こうから親指を立てた。

伊織の端末には、かつて必ず届いた《死亡者一覧》ではなく、新しい通知が表示されていた。

《安全停止権限を、瀬良伊織へ移管しました》