通過列車の郵袋

廃止目前の笹鳴駅に、最終列車の二時間後、小さな荷物が届いた。駅舎は雪崩で道路から孤立し、線路側の扉は内側から施錠されている。荷物は待合室の郵便台に置かれ、宛名は駅長の鷹栖。中身は、翌朝発表されるはずの廃線撤回通知だった。

駅に泊まり込んでいたのは、助役の硯川、売店員の久留里、鉄道記者の北条の三人。硯川は信号室、久留里は厨房、北条は駅長室で記事を書いていた。誰も待合室へ入った者を見ていない。窓の外には新雪が張りつき、ホームへ出た足跡もなかった。待合室の時計だけが、貨物急行の通過振動でかすかに揺れていた。

事実は三つに絞れた。午前零時十九分、貨物急行が減速せず駅を通過している。ホーム端の古い鉄鉤には、新しい麻縄の繊維が絡んでいた。そして硯川の左手袋には、細い縄で強く擦れた焦げ茶色の跡があった。

北条は通知を先に入手すれば特ダネになる。久留里は廃線になれば店を失う。硯川は駅長の座を狙っている。三人とも荷物を欲しがる理由はあったが、外から駅舎へ入れずに「届ける」には、線路の速度を利用するしかない。硯川は貨物急行に郵便設備などないと断言した。だが彼は、廃駅資料の整理を担当し、古い設備図を一人で読んでいた。

私がホームの柱を探ると、塗り重ねられた文字が現れた。郵袋掛け。昔、停車しない夜行列車から郵便袋を受け取るための設備だった。鉤へ輪を掛け、列車が引っかけた袋を縄で待合室側へ引き込む。

「硯川さんは貨物急行の乗務員へ通知を託し、窓から輪付きの袋を掛けさせた。通過列車が郵袋掛けへ落とし、あなたが縄を引いて受取口から中へ入れたのです。麻繊維、手袋の擦過痕、そして停車しない列車の時刻が同じ一点を指す。荷物は最終列車の後に届いたのではない。止まらない列車によって、駅の外から一瞬だけ手渡されたのです。あなたの手袋の傷は、重い袋を急停止させた縄の反動。列車が停まらなかったことはアリバイではなく、仕掛けを成立させる条件でした」