道化は王冠を笑わない
女王エリュネの即位祝宴で、道化パヴォは最高の冗談を求められた。
翌日、女王は隣国の王子と婚姻を結ぶ。その結婚によって十年続いた戦争が終わる。広間には両国の貴族が集まり、誰もが笑える言葉を待っていた。
パヴォは鈴のついた帽子を振り、玉座の前へ進んだ。
「私は女王陛下を愛しております」
一拍の沈黙のあと、広間は爆笑に包まれた。身寄りのない道化が女王を愛するなど、これ以上ない身の程知らずの冗談だった。
エリュネだけは笑わなかった。
夜更け、客が去ると、彼女はパヴォを玉座へ呼び戻した。
「先ほどの言葉を、鈴なしでもう一度言いなさい」
パヴォは帽子を脱いだ。笑顔も脱いだ。
「あなたを愛しています、エリュネ。王冠を戴く前から、私にパンを半分くださった少女の頃から」
女王の指が肘掛けを強くつかんだ。
「なぜ今まで黙っていたの」
「道化の愛は笑い話で済みます。しかし女王が返事をすれば、国が割れる」
エリュネは階段を一段だけ下りた。それでも二人の間には、玉座と床を隔てる六段が残った。
「私も、あなたを愛しています」
その言葉を聞いた瞬間、パヴォは笑った。今夜いちばん悲しい笑いだった。
「では、陛下。私をどうなさいます」
「東端の灯台守に任ずる。私が王冠を置く日まで、都へ戻ることを禁じます」
「それは追放ですか」
「あなたを生かしたまま、私のそばから遠ざけるための命令です」
「女王らしい愛し方だ」
「道化らしく笑って」
「これは笑えません」
夜明け、パヴォは鈴を布で包み、東門から旅立った。エリュネは見送りに出なかった。女王が一人の男のために泣く姿を、国民へ見せることはできなかった。
祝宴の記録には、道化の告白が「即位の日でもっとも愉快な冗談」として残った。
女王の返事は、どの年代記にも書かれなかった。
彼の告白だけが笑い声とともに国中へ広まり、彼女の告白だけが王冠の内側に閉じ込められた。