鉛服の患者

放射線治療棟の隔離室で、技師長の網代が鉛入り防護服を着たまま倒れていた。首の骨が折れている。服は総重量八十六キロで、床の固定環にも掛かっており、天井走行リフトなしには遺体を動かせない。銀灰色の服は、人間というより不発弾のように床へ沈んでいた。

容疑者は三人だった。診療責任者の深谷、放射線技師の小暮、夜間清掃員の榎本。網代は翌日、管理基準を破って線源を持ち出した職員を報告する予定だった。深谷は監督責任を問われ、小暮は操作記録を管理し、榎本は廃棄物置場へ出入りしていた。どの立場にも隠したいものがある。

深谷は会議室の録画に映り、榎本は廊下の清掃端末へ十分ごとに署名している。小暮は「網代が一人で防護服を試し、転んだのだ。患者用リフトは一週間前から故障中だ」と説明した。彼は専門用語を淀みなく並べたが、網代がなぜ靴を脱いでいたのかには答えなかった。

私は隔離室に残った事実を三つだけ記録した。

一つ。廊下には清掃直後の青い除染粉が薄く撒かれていたのに、網代の靴下には一粒も付いていない。重い服を着て歩いて入ったのではない。

二つ。肩、腰、脚の留め具はすべて背面で閉じられていた。柔軟な人間でも、着用したまま最後の腰金具までは届かない。

三つ。故障したはずの天井リフトのフックに新しい鉛色の擦り傷があり、操作盤は午後七時四十二分に小暮の保守カードで解除されていた。カードは伸縮紐で彼の胸ポケットにつながり、持ち出された形跡もない。

小暮はそれでも「誰かが紐を外した」と言い出した。深谷が無言で紐を引くと、封印された留め金が細い音を立て、カードは本人の手元へ戻った。

網代は防護服を着て歩き、転倒したのではない。小暮が先に首を折り、床へ広げた服に遺体を載せ、届かない背面金具を外側から閉じた。その全体を患者用リフトで吊って隔離室へ下ろし、固定環へ掛けたのである。青い粉のない靴下は歩行を否定し、背面金具は第三者の着装を示し、鉛色の擦り傷とカード記録が使用者を小暮に限定する。「故障中」という説明は、唯一その装置を動かした者が先回りして作った嘘だった。 カードを盗む余地も、別の吊り具も残されていなかった。