鐘が鳴る順番

乾いた月になると、朝の井戸端は戦場になった。

桶がぶつかり、縄が絡み、早く来られない病人の家には濁った底水しか残らない。村長は「譲り合え」と毎年言ったが、譲った者から損をした。

鐘楼守のメルカは、ある朝、喧嘩の最中に鐘を一度鳴らした。

広場が静まる。

「明日から、鐘で順番を分けます」

一つ目の鐘は、病人、妊婦、乳児のいる家。

二つ目は、東通り。

三つ目は、西通り。

翌日は東西を入れ替える。家ごとの上限は桶二杯。使った数は井戸脇の黒板へ白石で印をつける。特別扱いを求める者は、理由も全員の前に書く。

「鐘楼守が勝手に村を仕切るのか」

粉屋が詰め寄ると、メルカは鐘の綱を差し出した。

「鐘を鳴らす役は七日交代です。明日はあなたに」

粉屋は言葉を失った。

規則だけでは水は増えない。井戸底には崩れた石が溜まり、湧き口を塞いでいた。修繕には十二人が必要だった。

メルカは徴用名簿を作らなかった。黒板に必要な仕事だけを書いた。

石を運ぶ者、四人。

縄を引く者、六人。

炊き出し、二人。

働けない家は何もしなくてよい。ただし、誰が何をしたかではなく、何が埋まったかを毎晩消していく。

昼前、東通りの粉屋が無言で「縄を引く者」の欄に丸をつけた。西通りの仕立屋がその隣へ丸を描いた。仲の悪い二人の丸は、白い粉で少し重なった。

夕方には、黒板の空欄がなくなっていた。

修繕の日、井戸から上がった石は荷車一台分にもなった。最後の石を引き上げると、底で小さな音がした。しゅる、と砂を洗う音。やがて水位が、目盛り一つ、二つと上がっていく。

翌朝。

一つ目の鐘が鳴った。

誰も走らなかった。

病気の娘を持つ父親が桶を下ろし、その後ろで東通りも西通りも、決められた印の場所に並んだ。二つ目の鐘を鳴らす役は、あの粉屋だった。

満ちた桶が上がるたび、鐘の余韻が水面で震えた。

黒板の上には、新しい一行がある。

――順番は、強い者からではない。

三つ目の鐘が鳴るころ、井戸端には喧嘩の声ではなく、縄を譲る「どうぞ」が続いていた。