防御力ゼロの囚人

《囚人セクター:防御力 0》

王都の公開鑑定板は、処刑台よりも高く掲げられていた。数字は嘘をつかない――勇者隊がそう宣伝してから、民衆は裁判記録より表示を信じるようになった。

水晶板に表示された数字を見て、観客席から笑いが起きた。

死刑囚エッケルトは、処刑台の円内に立っていた。罪は「勇者隊の命令違反」。実際には、村を囮にする命令を拒んだだけだ。

あの夜、エッケルトは命令書を燃やし、三百人を裏道へ逃がした。勇者隊が到着したとき魔物はすでに退き、ザフィルだけが「自分の陽動作戦が成功した」と報告した。

勇者隊長ザフィルは笑顔で剣を抜く。

「防御力ゼロか。処刑というより、確認作業だな」

記録官が首を傾げた。水晶板は防御値の欄だけ、数字の左側に不自然な空白を残している。だがザフィルが睨むと、彼は黙って確認印を押した。

第一撃は、雷の剣だった。

青い稲妻が円内を埋め、床石を溶かした。見物人たちは結界越しに歓声を上げる。ザフィルは剣を肩に担ぎ、記録官へ目を向けた。

「死亡判定を」

記録官は返事をしなかった。

煙の向こうで、エッケルトがまだ立っていたからだ。両腕を下ろし、少し猫背で、攻撃前と同じように欠伸を噛み殺している。

《損傷率:0.000%》

村から来た老女が、柵の向こうで「その人は逃げなかった」と叫んだ。兵が口を塞いでも、今度は別の声が続く。笑いに来た観客は、鑑定板とエッケルトを見比べ始めた。

歓声が途切れた。

「水晶板の故障だ」

ザフィルは剣を天へ掲げた。雷雲から巨大な槍が形成される。魔王城の門を一撃で消した、勇者隊最大の殲滅術。

「これで数値ごと消えろ!」

雷槍が落ちた。

処刑場の結界が三枚割れ、観客席の旗がすべて焦げた。光が収まるまで、誰も目を開けられない。

やがて記録官が、震える声を漏らした。

「立っています」

円の中心。エッケルトはやはり猫背のまま立っていた。足の位置すら、床に刻まれた印からずれていない。

「だから言っただろ。ゼロなんだ」

「な、何がだ」

「受ける損傷が」

記録官は震える手で表示桁数を増やした。空白だった場所に収まるはずの桁は、一つでも二つでもなかった。水晶板の縁を越え、光の数字が空中へあふれた。

水晶板の表示が激しく明滅した。

《再測定》

《再測定》

《上限値を更新》

《測定不能》

最後の文字だけが、広場いっぱいに拡大された。

《対象防御値:測定不能》