雨のタクシー、あと四分

親友の結婚式の帰り、柊香と玄暉は同じタクシーに押し込まれた。

雨で電車が止まり、空車は一台。玄暉の降車地点まで四分、その先が柊香の家だった。大学時代、玄暉は親友と三か月だけ付き合っていた。別れは穏やかだったし、今では二人とも笑い話にしている。それでも親友が失恋した夜、朝まで隣にいたのは柊香だった。十年近く前のことでも、柊香にとっては好きと言えない理由として十分だった。

夕方、親友へ《玄暉と二人で食事に行ってもいい?》と送った。結婚式の日に送る内容ではなかったと、送信直後から後悔した。既読はつかない。披露宴で疲れて眠っているだけだと分かっていても、画面を見るたび罪悪感が増えた。

後部座席では、濡れたコート越しに肩が触れた。ワイパーが往復するたび街灯が切り刻まれ、どちらも窓側へ逃げられない。運転手は二人の事情など知らず、静かな失恋ソングを小さく流していた。

「返事、来た?」

「まだ」

「俺たち、食事に行くにも許可がいる?」

「友達だから」

「誰と?」

「彼女とは、ずっと一緒だったから」

玄暉は雨粒の向こうを見た。

「じゃあ、俺とは?」

「友達だから」

「便利だな、その言葉」

ナビが「目的地まで四分」と告げた。玄暉は、今日の式で柊香が落としたイヤリングを掌に置いた。拾っていたのに、連絡する口実に使わなかったらしい。

「返事が来なければ、俺からは連絡しない」

「そんなの、困る」

「何が?」

答えれば何かが壊れる。答えなくても、もう同じ形ではいられない。

タクシーが赤信号で止まったとき、柊香の画面に既読がついた。続いて親友から一言だけ届く。

《私に聞くより、本人に聞きなよ》

思わず笑うと、玄暉がこちらを向いた。

柊香は友人とのトーク欄へ音声入力を押した。

「友達だから、最初に隠したくないって思った。返事を待たせてごめん」

送信後、玄暉から届いていた《今夜、連絡してもいい?》を開く。彼の降車地点でドアが開いても、柊香はそのメッセージを消さなかった。

「次の信号まで」と運転手に告げ、玄暉も座席へ戻った。