雪祭りの鎖をほどく

冬至祭の広場へ、白狼が吹雪を連れてきた。

屋台は閉じられ、親たちは子どもを抱いて礼拝堂へ逃げ込んだ。祭司は階段の上から「雪神の怒りだ」と叫び、兵士に聖銀の矢をつがえさせる。

鐘守のユーミルには、吹雪の音に混じって別の音が聞こえた。

しゃりん。しゃりん。

白狼が一歩進むたび、首元で鎖が鳴っている。

「待ってください。あれは首飾りじゃない」

誰も聞かなかったので、ユーミルは自分で階段を下りた。白狼の首には、何重にも巻きついた細い銀鎖が食い込んでいた。祭礼用の罠だ。雪山へ供物を置くふりをして神獣を捕らえ、祝福を独占しようとした者がいる。鎖には礼拝堂の紋まで刻まれていた。毛に隠れた皮膚から血が滲み、凍って赤黒い粒になっている。

白狼が唸る。兵士が矢を放ちかけた。

「怖いよね。私も高い鐘楼は怖かったよ」

ユーミルは毎日、巨大な鐘に話しかける癖があった。声が小さいと祭司に叱られても、黙って聞く相手の苦しみには誰より敏かった。相手が神獣でも、声のかけ方は同じだった。

掌を見せ、正面ではなく横から近づく。白狼の鼻が袖口を嗅いだ。彼女は鎖へ指を入れ、締まり具合を確かめる。冷え切った金属が指先へ貼りついた。

腰の鐘修理用の小鋏で、一輪ずつ切った。最後の鎖が落ちると、白狼は首を振った。広場中に雪が舞い、兵士たちは悲鳴を上げる。けれど次の瞬間、白狼はユーミルの前で腹を見せて転がった。

「そこも擦れてるの?」

厚い冬毛の下、胸にも鎖の跡がある。彼女は祭り用に温めていた葡萄酒ではなく、屋台の湯を借り、傷を洗った。自分の赤い肩掛けを外して首へ巻く。

切れた鎖の紋を見て、祭司が顔を青くした。雪神の怒りと呼んだものが、自分たちの隠した罪だったからだ。

白狼の胸元に雪花の印が浮かび、同じ印がユーミルの鎖骨にも灯ったからだ。

「雪神が、鐘守を選んだ……」

ユーミルは返事をしなかった。白狼が起き上がり、そのまま彼女の膝へ頭を落としたからだ。赤い布の下で白毛は湯気を含み、冬の広場とは思えない熱と、逃げられないほど幸福な重みを伝えていた。