零番席への一票
浜路真白は、投票端末の候補一覧を一番下までスクロールした。
一、浜路真白。
二、犬飼礼央。
三、加治木奈々。
そして、薄い灰色で表示された零番――桐生院冬悟。
真白は迷わず零番を押した。
「誰だ、それは」
礼央が覗き込み、奈々も自分の端末を操作する。壁の規則にはこうある。
〈参加者の中で、このラウンドの公約を最初に破った者へ投票せよ。正解者を解放する〉
三人は開始時、「互いの投票内容へ干渉しない」という公約へ署名していた。その直後から、天井の司会者は個別イヤホンで囁き続けた。
真白には「礼央は奈々へ投票済み」。礼央には「奈々が真白を裏切る」。奈々には「真白は秘密の免責を得た」。
三人を誘導し、投票へ干渉した声の主こそ、公約を最初に破っている。
「でも司会者は参加者じゃない」と奈々が言う。
真白は画面右上の小さな表示を指した。
〈投票受付数 〇/四〉
三人しかいないのに、分母は四。さらに規則を承認する電子署名欄には、零番の署名が最初から記録されていた。司会者は同じ判定権限を得るため、自分を参加者として登録している。
『零番は進行管理用の便宜的な登録です』
「便宜的でも登録は登録。候補一覧にもいる」
『私には投票権がありません』
「規則は投票権のある参加者とは言ってない」
礼央が零番を押した。奈々も続く。
残り十秒、零番から一票が投じられた。候補は真白。主催者は自分の票で真白を最多にし、判定を混乱させるつもりらしい。
だが問われているのは票数ではない。公約を最初に破った人物を当てたかだけだ。
〈桐生院冬悟――開始十三秒、個別通信による投票干渉〉
〈零番への投票者三名、正解〉
首輪が外れ、一方鏡が透明になる。向こう側には、端末を握った冬悟が一人で座っていた。
真白はガラス越しに彼を見る。
「裏切り者を探させる人間は、自分だけ盤の外にいるつもりになる」
出口が開く。
「でも投票数を四にした時点で、あなたは最初から同じ卓に座っていた」