青い薬瓶は使わない
「青い薬瓶を三滴。あとは教本どおりで結構です」
王都錬金術院の実技試験で、助手が同じ微笑みを浮かべた。
ミレナの卓上には、乳鉢、乾燥月草、銀の匙、そして青い小瓶。前の人生で彼女は指示どおり三滴を落とした。治癒薬になるはずの液体は爆発し、隣の受験生に火傷を負わせた。故意の妨害と決めつけられ、資格を奪われた。
十年後、廃工房の片づけで知った。青い瓶には触媒ではなく、月草と反応して爆ぜる涙石の溶液が入っていた。瓶底の厚さが一厘だけ違う、試験荒らし用の偽物だった。
今、砂時計の砂はまだ半分。
「聞こえませんでしたか? 青を三滴です」
助手が繰り返す。前と同じ台詞だ。
前のミレナは「承知しました」と頭を下げた。
今度は銀の匙を置く。
「使いません」
周囲の手が止まった。
「指示違反は失格です」
「では、規格検査をお願いします。正規瓶は空でも十二匁。これは十三匁あります」
ミレナは天秤へ瓶を載せた。反対側に十二匁の分銅を置くと、青い瓶が明らかに沈む。
助手の笑みが消えた。
「瓶底の飾りでしょう」
「正規品に飾りはありません。中身を石灰紙へ一滴落とせば、もっと早い」
院長が無言で試験卓へ降りてきた。青い液を白い紙へ垂らす。紙は黒紫に縮れ、焦げた甘い臭いを放った。
「涙石だ」
低い声が室内を切った。
助手が出口へ走るより早く、床の拘束陣が光る。前の人生ではミレナの足首を捕らえた陣が、今度は助手を縛り上げた。袖からは、他の受験卓と同じ番号を貼った青瓶が三本転がる。偶然ではないことまで、その場で明らかになった。
他の受験卓の青瓶も直ちに回収され、爆発は一件も起きなかった。院長は別の透明瓶を差し出した。
「試験を続けられるか」
「もちろんです」
ミレナは月草をすり、透明な触媒を三滴。液体は澄んだ若草色へ変わり、傷ついた試験用鼠の背がその場でふさがった。
採点盤に金字が走る。
【調合精度百点/異物鑑定加点二十】
前回は爆発音で止まった砂時計が、今回は合格の鐘を鳴らした。