静かになるまで開けません
【四年三組 学級日誌】
二月十四日 五時間目
今日は外で道路工事をしているので、先生が教室の窓を全部閉めました。すき間からほこりが入らないように、テープも貼りました。
廊下側の小窓には紙を貼りました。
換気扇は音がうるさいから止めました。
先生は倉庫から古い暖房器具を運んできました。少し変な匂いがしたけれど、「新品よりよく暖まる」と言いました。
授業は自習です。
先生は何度も廊下へ出ます。戻ってくると窓を開けようとする子を叱ります。
「今日は誰も教室から出ません。全員が静かになるまで、扉も開けません」
最初に眠ったのは窓側の子です。
次に前の二人が机へ伏せました。
みんな、頭が痛いと言っています。
保健係が先生を呼びましたが、先生は廊下から「もう少し我慢しなさい」と答えました。
教室で飼っているハムスターも動きません。
先生は「冬眠だ」と言いました。
六時間目
チャイムは鳴ったけれど、先生は戻ってきません。
扉には外から鍵が掛かっています。
窓のテープを剥がそうとしたら、指に力が入りませんでした。椅子を持ち上げた子は、そのまま床に倒れました。
先生が廊下の小窓の紙を少しだけめくりました。
口元を布で覆い、教室をのぞいています。
「まだ五人」
先生はそう言って、また紙を戻しました。
何を数えているのか分かりません。
七時間目
学校には七時間目はありません。
でも時計は動いています。
起きているのは、たぶん私と、後ろの席の子だけです。
その子もさっきから返事をしません。
先生の机の上に封筒があります。
表に〈校長先生へ〉と書いてあります。中は見ていません。
黒板には、先生が帰る前に書いた文字が残っています。
〈このクラスは、最後まで私の言うことを聞きませんでした〉
廊下から鍵を確かめる音がしました。
「あと一人」
先生の声です。
お母さんへ。
この日誌が届いたら、私が居眠りをしていたのではないと、みんなに言ってください。
もう字がうまく書けません。
先生が、小窓の紙をめくりました。
「これで全員、静かになりました」