面会者欄には本人

 看護師の安曇篝がその面会者を初めて見たのは、六月の木曜日だった。

 個室に入院している峰守晟は二十八歳。交通事故で脚を折っただけで、翌月には退院できるはずだった。

 受付へ来たのは、八十歳ほどの老人だった。

 峰守と同じ目、同じ曲がった小指、同じ右耳の傷がある。

「ご関係は」

 老人は面会票の続柄欄に〈本人〉と書いた。

 双子の祖父だろう、と篝は思った。

 老人は一時間ほど病室に滞在し、帰り際には杖を使わず歩いていた。反対に、峰守はひどく疲れた顔で眠り込んでいた。

 次の木曜、老人は七十歳くらいに見えた。

 三度目には六十代。

 そのたび峰守の髪に白いものが増え、頬が痩せ、声が低くなった。

「何を話しているんですか」

 篝が尋ねると、峰守は笑った。

「未来の相談です。あの人は、俺が失敗しないように来てくれる」

 老人は逆のことを言った。

「昔の自分から、使わなかった時間を返してもらっているだけです」

 七度目の面会日。

 受付に現れた男は三十代にしか見えなかった。峰守と同じ顔だが、病室の峰守は白髪の老人になり、酸素吸入を受けていた。

 男はいつもどおり〈本人〉と記入した。

「今日で全部、返してもらいます」

 篝は面会を断ろうとした。しかし病室の峰守が、「入れてください」と頼んだ。

 二人きりになって十分後、心停止の警報が鳴った。

 ベッドには八十歳ほどの男が死んでいた。

 面会者は二十八歳の姿で廊下に立ち、峰守の服を着ている。手首には、患者用のバンドまで巻かれていた。

「退院手続きをお願いします」

「あなたは面会者でしょう」

 若い男は首をかしげた。

「面会者は、あちらです」

 死体の胸元には面会証が置かれていた。

 続柄欄の〈本人〉という文字だけが、赤くにじんでいる。

 防犯映像を確認すると、病院へ入ってきたのは老人一人だった。

 若い峰守が入院してきた記録は、一か月前からすべて老人の顔へ変わっていた。

 若い男は正面玄関を出る前に、次回予約票を受付へ置いた。

〈四十七年後 面会希望〉

〈訪問先 峰守晟〉

〈続柄 本人〉