面接官は一羽多い
【オンライン面接 接続開始】
採用担当「矢羽田未守さんですね。本日はよろしくお願いします」
未守「よ、よろしく――」
オカメインコ「コエガチイサイ!」
未守「……父の鳥です。申し訳ありません」
鳥の名はゼンマイ。父が工場の班長だったころから、人へ指示するのが趣味だった。
未守は八年間、父の介護をしていた。父を見送ったあと、三十七歳で初めて転職活動を始めた。履歴書の空白期間について尋ねられるたび、「家庭の事情」とだけ答え、落ちた。
父は晩年、言葉を忘れる日が増えても、ゼンマイへの訓示だけは正確だった。鳥は褒め言葉より小言をよく覚え、父がいなくなってからも家の中を仕切り続けた。
採用担当「今回は在庫管理の職種ですが、ご経験は」
未守「ありません。ただ、父の服薬と通院、食事、訪問サービスを――」
ゼンマイ「ケツロンカライエ!」
未守は頭を抱えた。
採用担当は笑いをこらえながら言った。
「では、結論からお願いします」
未守は一度、息を吸った。
「八年間、一日も止めずに、変化する予定と体調を管理しました。仕事としての経験ではありません。でも、誰かの生活が崩れないように先を読むことはできます」
画面の中の表情が変わった。
未守は初めて、介護の年月を空白ではなく、してきたこととして話した。夜中の発熱、薬の変更、父が自分でできることを奪わない工夫。ゼンマイは途中で餌を食べ始め、珍しく黙っていた。
採用担当「最後に、何か質問はありますか」
未守「未経験でも、本当に応募してよかったでしょうか」
ゼンマイが止まり木を一歩進んだ。
「ヤッテミロ!」
それは父が、生前よく言った言葉だった。
続いてゼンマイは、父の咳払いまで真似し、もう一言つけた。
「ダメナラ、カエッテコイ!」
未守は泣きそうになり、採用担当はとうとう笑った。
「頼もしい相談役ですね。なお、弊社は失敗しても帰宅できます」
一週間後、採用の連絡が来た。
初出勤の朝、未守は父の写真へ手を合わせた。玄関で靴を履くと、ゼンマイが籠の中から叫んだ。
「コエガチイサイ!」
未守は笑い、大きな声で答えた。
「行ってきます!」
ゼンマイは羽冠を立て、父の声で「ヨシ」と言った。
今度は鳥の真似だとわかっていた。
それでも未守は、背中をまっすぐにして扉を開けた。