面接室Bの応募者

採用面接では、本人と影を別室で審査する。

本人は面接室A、影は面接室Bへ入る。質問は同じだが、影の回答を本人が訂正してはいけない。合否が食い違った場合は、会社が必要とするほうだけを採用できる。影だけが採用された者は、毎朝九時までに会社の壁へ影を届け、本人は敷地へ入らない。

殿村景は、三十社目の面接でその説明を受けた。

面接室Aには長机と椅子が三つあった。Bは壁の向こうらしく、景の足元から影が抜けると、薄い扉の下へ潜っていった。面接官は誰も驚かず、履歴書をめくった。

「前職を辞めた理由は」

「事業縮小です」

壁の向こうから、鉛筆が走る音がした。影は声を持たないので、回答用紙へ書いている。

「チームで困難を乗り越えた経験は」

景は、納期直前の障害対応について話した。実際には一人で残業しただけだった。助けを求める相手も、引き継ぐ相手もいなかった。けれど面接では、協力と連携を示す例に整える必要がある。

「五年後、どうなっていたいですか」

「御社の中核を担う人材に」

答えながら、壁際に自分の影がないことに気づいた。体が椅子へ直接置かれているようで、落ち着かなかった。

面接終了後、AとBの評価票が封筒に入れられた。結果はその場で知らされる。

《本人:不採用》

《影:採用》

人事担当者は慣れた手つきで契約書を二部出した。影の月給は景の希望額より高かった。福利厚生もあり、社員食堂の利用権までついている。ただし給与は影名義の口座へ振り込まれ、本人は一割の管理料だけ受け取る。

「お受けになりますか」

景は壁の下を見る。影はB室から戻らず、細い隙間の向こうで直立していた。前職で徹夜した夜も、失業して昼まで眠った朝も、影だけは黙ってついてきた。その影にさえ、自分より働く価値があるらしい。

景は契約書へ署名した。

翌月から、毎朝会社の正門で影を切り離した。影は社員証を首から下げ、玄関の壁を上っていく。景は門の外で管理料の振込通知を待った。

初給料日、封筒が一つ届いた。中には社員食堂の箸袋と、面接室Bで使われた回答用紙が入っていた。

最後の質問への答えだけが読めた。

《五年後は、本人なしで歩きたい》

用紙の端には、黒いネクタイが小さく結ばれていた。