音のない狼鈴

トグサル・エジンは、盗んだ馬より狼鈴を大事そうに抱えて捕まった。

青銅の鈴には舌がない。振っても鳴らず、胴には七つの窪みがあった。敵兵は馬に蹴られた傷だと思った。窪みは北から順に、浅い、深い、二つ並び、また浅い。草原の斥候だけが使う、丘と谷の符号だった。

密書は文字にすれば奪われる。青銅に打てば、敵は戦利品として運んでくれる。

トグサルは敵汗バルガイ・スルンの幕前へ引き出された。頬へ凍った土が張りつき、縄は手首の皮を食っている。

「どこで取った」

バルガイが鈴を指した。

「死んだ騎兵の首から」

「狼鈴は隊長しか持たぬ」

「隊長も死ねば、ただの死人だ」

鞭が飛び、片目が腫れた。トグサルは倒れながら鈴を離さなかった。守れば価値があるように見える。価値がある物は、兵が壊さず上へ送る。

バルガイは鈴を奪い、刃先で内側を探った。空だった。火へ入れて継ぎ目を調べ、砂へ落とした。七つの窪みだけが残った。

「音の出ぬ鈴を、なぜ命より守る」

「音が出ないからだ。鳴る物は居場所を売る」

バルガイは初めて笑った。

「こいつを明朝、馬裂きにしろ。鈴は戦利庫へ」

それが狙いだった。戦利庫を預かるオチル・ナランは、十年前からこちらの耳だった。

日が落ちると、兵たちは鈴を酒椀の代わりに回した。誰かが窪みへ脂を詰め、誰かが火で炙った。それでも傷の深さは変わらない。トグサルは笑い声を数えた。七つの窪みを読み違えれば、峡路へ入る味方は皆殺しになる。自分の骨が裂かれる明日より、その方が怖かった。

夜半、トグサルは杭へ縛られたまま、遠い倉の灯が一度消え、二度点くのを見た。オチルが鈴を読んだ合図だ。

七つの窪みが伝えたのは、敵左翼の騎兵が夜明け前、馬を水場へ下ろすこと。空くのは半刻。その半刻で味方は峡路を抜ける。

見張りがトグサルの腫れた目を覗き込んだ。

「明日には二つとも鴉の餌だ」

「明日まで要るのは一つだけだ」

東の丘で、狼の尾を束ねた白い馬標がゆっくり上がった。