魂のほつれを結び直す

ナユカは神殿の隅で、亡者に着せる白衣ばかり縫っていた。

治癒術を持たない者に、生者を救う資格はない。司祭長はそう言い、彼女が診療室へ近づくたび箒で追い払った。

授かった技能も、死装束向きだと決めつけられている。

【固有スキル《繕い》:ほつれた糸を元の織り目へ戻し、形を整える】

その夜、国を救った女剣士サフィラが運び込まれた。

魔将を討った代償に、胸へ死神の鎌を受けていた。傷は浅い。だが彼女の身体から半透明の姿が引きずり出され、黒い鎖の先で死神が笑っている。

高位司祭たちは肉体の傷ばかり塞ぎ、魂が抜けていく理由を理解できなかった。聖水は床へこぼれ、最高級の宝珠は次々と砕ける。失敗するたび、司祭長は責任を助手へ押しつけ、治療費だけを王家へ加算した。

「もう助からぬ。英雄として丁重に送れ」

司祭長は白衣を用意するようナユカへ命じた。

サフィラはかすかに目を開けた。

「弟が……帰りを待っている」

ナユカは白衣を置いた。

死神の鎖に触れれば命を取られる。それでも彼女には、サフィラの胸から伸びる金色の細糸が見えていた。身体と魂を織り合わせていた糸が、鎌で断たれ、端からほどけている。

「それは命だ。布ではないぞ」

「だから、見捨てるんですか」

司祭長の制止を振り切り、ナユカは死装束用の針へ金糸の端を通した。

死神が鎖を引く。

彼女は引かれる魂と残された身体の間へ針を刺した。散った記憶を一目、約束を一目、弟の笑顔を一目。元あった織り目をなぞるたび、サフィラの輪郭が肉体へ重なっていく。

最後のほつれを結んだ瞬間、黒い鎖のほうが耐えきれず、糸くずのように崩れた。

死神は空の手を見て消え、サフィラが大きく息を吸う。

心臓の音が診療室に響いた。

司祭たちは誰一人、治癒の祈りを唱えていない。救ったのが誰かは、弟の名を呼んで起き上がった英雄の手が、ナユカだけを握ったことで明らかだった。

【職業《死装束縫い》が上位職《魂綴神官》へ書き換わりました】