魔導列車の終点で待つ人
整備士コルネは、魔導列車《青燕号》を止めてしまった。
山岳線の試運転中、彼女が交換した魔力弁が砕け、列車は谷の手前で緊急停止した。乗客は無事だったが、鉄道局は「未熟な整備」と発表し、工房長はその日のうちにコルネの名札を外した。
最終給与を受け取るため終点駅へ行くと、閉鎖された三番ホームに三人がいた。
王立列車隊の運行士ハーゲンは、機関室の銀鍵を差し出した。
「次の試験車を任せたい。鍵は整備責任者が持つものだ」
空輸船《暁鯨》の船長ルチアナは、乗員名簿の一枠を指で叩いた。
「空なら線路はいらない。機関士の欄だけ空白よ」
町工房の発明家ペレスは、駅前に停めた小型車のランプを消さなかった。
「今夜は雪になる。断るにしても、君を一人で歩かせない」
鉄道、空、町。違う道から同時に誘われ、コルネは胸が熱くなるのを恐れた。期待したぶんだけ、追い出されたときは痛い。
三人は事故報告書ではなく、彼女が書き込んだ整備手帳を読んで来たという。失敗の頁にも、直す手順が最後まで記されていた。
そのとき廃車予定の貨物機関が勝手に唸り始めた。コルネが昨夜まで調整していた試作炉だ。圧力計の針が赤域へ跳ねる。
彼女は工具箱を開き、弁を手動で閉じた。だが焦りで固定具を一本落とし、炉の外殻に亀裂が走った。
「また壊した……」
白い蒸気の向こうで、三つの影が遠ざかるように見えた。
もう勧誘は消えた。そう思い、コルネは工具を置く。
「すみません。私に機関を任せる話は忘れてください」
蒸気が晴れると、三人はまだホームにいた。
ハーゲンは銀鍵で非常排気口を開け、ルチアナは外套を裂いて亀裂へ耐熱布を巻き、ペレスは落ちた固定具を線路の下から拾い上げていた。
「壊したんじゃない。暴走する炉を止めた」とハーゲン。
「亀裂一本で船員を捨てていたら、空には誰も残らないわ」とルチアナ。
ペレスは油に汚れた固定具を彼女の手へ戻した。
「直すなら手伝う。直さないなら送る。どちらでも残るよ」
列車隊の鍵、空輸船の空欄、町へ向かう灯。
コルネはまだ一本の道を選ばない。ただ三番ホームの時計が夜を告げても、三人の帰路は彼女のために止まったままだった。