黒い聖餐
聖餐の鐘が鳴る直前、ミラヴェルは祭壇の下から咳を聞いた。
白布をめくると、少年ジェナスが鎖で柱につながれていた。唇は紫色で、足元には血の混じった杯がある。
「飲まされたの?」
少年は頷いた。
《癒やしの杯》は、二人が続けて口をつけると、後から飲んだ者の病を先の者へ移す。教会は「聖杯が病を消す」と宣伝し、最初に飲まされる者を祭壇の下へ隠していた。名簿に載らない孤児なら、何人死んでも奇跡の記録は汚れない。
司祭ハドロが貴族たちを率いて入ってきた。熱病、腐った肺、骨の腫れ。治療を求める者が金貨を献金箱へ落とし、列を作る。
「布を戻せ」とハドロは囁いた。「あれは祝福を受ける器だ」
「器に名前はないのですか」
ミラヴェルは鎖を切った。
司祭が合図すると衛兵が近づく。彼女は杯を取り、ジェナスが止める前に残った黒い液を飲み干した。
「最初は私です」
次に、熱で立てない老婆へ杯を渡した。老婆が一口飲むと、その頬から赤みが引いた。同時にミラヴェルの額が燃え、視界が揺れる。
「奇跡だ!」と司祭は叫んだ。
「ええ。よく見て」
肺病の男が飲む。男の咳が止まり、ミラヴェルの喉から血が噴いた。骨の病の娘が飲む。娘の背が伸び、代わりにミラヴェルの指が節ごと膨れた。
列は祭壇から扉の外まで続いていた。献金できず、朝から追い払われていた病人たちだ。ジェナスが大扉を開き、彼らを招き入れた。
ハドロは杯を奪おうとしたが、貴族の一人が腕をつかんだ。自分の治癒が、祭壇の下の少年へ何をしたか理解したのだ。
ミラヴェルは飲み口を布で拭き、次の者へ差し出した。
一人、また一人。熱、膿、麻痺、失明、皮膚を食う斑点。病は消えず、すべて彼女の中へ移っていった。
最後の幼子が目を開けたとき、聖堂は静まり返った。
「これを奇跡と呼ぶのですか」
ミラヴェルの声には、百人分の咳が重なっていた。
司祭は答えなかった。群衆が祭壇を壊し、下から鎖と小さな骨を掘り出していた。
ジェナスが彼女の手を握る。救われた少年の手は温かい。
対して、ミラヴェルの腕には黒い斑点、白い腫瘍、青い血管が地図のように広がっていた。片目は乳白色に濁り、もう片方だけが少年を見た。
聖杯が空になったあと、病人は一人も残らなかった。
ただ祭壇の前に、教会が隠してきたすべての病を一身に着た女が立っていた。