CCの一行
凪原広告の一次面接は、オンラインで四十分の予定だった。
蜂須賀澄佳は三十分で役員を魅了した。四年間、海灯堂のアートディレクターとして化粧品広告を統括し、昨年は業界賞を受賞した。画面共有されたポートフォリオには、街中で見た覚えのあるポスターが並んでいる。蜂須賀は、モデルの視線を右へ向けた理由や、商品名を三ミリ下げた判断まで、自分の決断として語った。
面接官の奥平は、採用欄に「次へ」と入力した。役員チャットにも〈即戦力〉の文字が流れ、残る質問は希望年収だけになっていた。
そのとき、蜂須賀が「補足資料を送りました」と言った。受信通知が鳴る。宛先は奥平、CCには見慣れない個人アドレスが一つ入っていた。
奥平が資料を開くより早く、CC先から返信が来た。
〈澄佳さん、昨日も断りました。私の制作物を、あなたがディレクションしたことにして使うのはやめてください〉
画面の向こうで、蜂須賀の肩が止まった。役員の一人が、手元のポートフォリオから静かに指を離した。
「元同僚です。感情的になっていて」
奥平はメールの下に連なる引用文を読んだ。蜂須賀が前夜送った文面だった。
〈面接だけだから、私が責任者だったことにしても問題ないよね。受賞作の共有リンクも生きてるし〉
「冗談です。実際には進行管理を手伝いました」
「共有リンクの履歴も確認してよろしいですか」
許可を待たず、蜂須賀が自分で送ったポートフォリオの情報欄が開かれた。全作品の作成者はCC先の人物。蜂須賀の初回アクセスは昨夜二十二時四十七分で、権限は閲覧者。受賞時の制作会議の予約にも、最終確認メールのCCにも、蜂須賀の名はなかった。
「海灯堂には在籍していました」
「履歴書には、制作責任者として四年とあります」
蜂須賀は黙り、通信が一瞬だけ乱れた。切断を装うには短すぎる沈黙だった。
奥平は先ほど入力した「次へ」を消した。候補者ステータスを開き、蜂須賀が見ている画面のまま「不採用」を押した。